第85期 #10
芳川良治は女子高の数学教師であり、治癒不能な変態だった。
彼が数学準備室に呼びつけたのは藍原美由紀。ストレートのロングヘアー、整った顔立ち、薔薇色の頬、そして自然な愁眉が本人の意図しない艶かしい科を醸し出していた。
裕福な家庭で厳しくしつけられた美由紀が偏差値の高いこの女子高に入学できたのは、頭がよいというよりは、親の言いつけ通り従順に一生懸命受験勉強したからだった。暗記では対処できない数学は大の苦手だ。
そんな優等生の美由紀が、校則に違反して学校に携帯電話を持ってきた。
「ただの携帯でなくiphoneだ。この大不祥事が表沙汰になれば君は退学処分だ」
美由紀は無言だった。伏せられた長い睫は罪の意識にじっと動かず、ふっくりした唇は諦めたように少し開いて微かに震えていた。
「なぜ黙り込んでいる? 君は真面目さが足りないな。それとも私が嫌いなのか。数学だけ特に成績が悪いのは、私が気に入らなくて手を抜いているのかな」
「ち、違います……」
「じゃあなんだ。もう少し心を開いてくれないと、担任として力になれないよ」
「私、どんな処分を受けても仕方ありません」
「もちろんそうだ」
芳川は大声で決めつけた。美由紀はつらそうに唇を噛んだ。
「君のためを思って言ってるんだよ」
芳川は一転して猫なで声になり、
「君にチャンスを与えたい。これからiphoneへの誘惑を断ち切るための訓練をして、きっぱりiphoneを諦めることができれば、親にも学校にもこの件は秘密にしておこう」
「先生……」
「君のiphoneは預かっておく。代わりにこれを持って帰りなさい。訓練用だ。タッチできなくても我慢する精神を鍛えるためのものだ」
美由紀は言われるまま特殊なiphoneを持ち帰った。それはjailbreakして表面に特殊なシールが貼られ、タップもピンチもできなかったが、自動的に次々画面が切り替わり、Safari、iPod、iTunesなどの鮮やかなページが次々と表示されるのであった。
美由紀はiphoneの画面を見つめて、悶々と一夜を過ごした。
翌朝、芳川のもとに駆け込んだ美由紀は、美しい顔を歪めて懇願した。
「先生、お願いです、シールをはがしてください。我慢できません……!」
一晩で豹変した美少女を見て芳川は内心激しく興奮したが、懸命に平静を装い、ポケットに手を突っ込んだ。固くそそり立つ裸のiphoneが手に触れて、思わずギュッと握り締めた。