第82期 #32
布団が燃えている。
綿が空気をふくんでいきおいよく炎をあげる。
いったいどこで眠ればいいのだろう、新しい布団をさがすのか。新しさを装った布団はふたたび、喜劇的に燃えあがるにちがいない。
目を閉じるのがこわい。
三日三晩の徹夜を明ければ、燃えない布団が手に入るのだろうか。百日百晩ではどうだろう。
枕にうずめて和らいだ表情を浮かべる幻の一夜は、遠ざかってかすんでしまった。足にふれるシーツの理くつのないぬくもりは消えてしまった。
瞼を閉じ静かに寝息を立てる少年は、まるで乾涸びた屍体のようだ。
こんがりと燃えて、風が灰を散らかす残骸のうえに腰をおろす。
横になると散り散りに燃え残った綿たちが、ささやきはじめる。
いつになれば眠れるのか、いつになれば眠れるのか。
頭をあげると夜が満ちている。
きらめく星をたよりに起きているほど気は抜けていない。眠ることはできずにあたりを眺めている。
醒めたまま、焦げてつかいものにならない布団のうえ、目を閉じ眠ったふりをする。
いつになれば眠れるのか、いつになれば眠れるのか。
まだらに焦げた綿たちは、くまなく燃やしつくされる。浴びせる熱線はみずからの身体をも焦がしてしまう。まっ黒の顔を映してみると、笑いが止まらない。
いつか夜が、一面を黒漆で塗りこめたような、重苦しい夜が来るそのときに、おそるおそる瞼を開ける。
いつになく寂とした夜。燃えつきた布団は種火にもならない。
目が開いているのか閉じているのかわからない、眠っているのかいないのかもわからない、夜が沈んだ夜。
虫の羽音があたまのすみに聞こえはじめるまで、夜は黙っている。
やがて陽が昇ってあたりが靄に煙ると、両手を伸ばして起きあがる。人びとの布団は轟々と空気をすいこみ炎をあげている。
燃えるのならば、燃やしつくしてしまおう。暮れれば灰に瞼をおろし、夜を待っている。