第79期 #14

受賞者

「もう私がノーベル賞を受賞することはなさそうだ」
博士はその老体を実感しながら呟いた。
「博士、まだ希望を捨ててはいけません!」
「いや、私が老い先短かいのはもうわかっておる。せめて、息子か孫、私の子孫に受賞者が出ればいいのだが……」
「では博士、こんな機械を作ってみてはいかがでしょう」
私は、たった今思いついたアイディアを話す。
「情報のタイムマシンです。もう博士は時間旅行も苦しいでしょう。なので未来の情報を読み取れる機械を作るのです。そして博士の子孫を検索にかけて、受賞者が出たのかを調べるのです」
「おお、それはいいアイディアだ。さっそく開発するとしよう」
時間工学において天才的な頭脳を持つ博士は、一晩でその機械を作りあげてしまった。
完成したこの検索機に、博士の名字と受賞者の二単語で検索にかける。
「ケンサクケッカ 1ケン です」
私と博士はそのページを開いた。
そこには博士の子孫が三百年後に、ノーベル平和賞を受賞すると書いてあった。
「よかった、私はこれで安らかに逝くことができるよ」
博士は満足して、そのまま他界してしまった。
私はこの検索機をさらに改善して、小型にし、世間に広めた。
そのおかげで私はノーベル物理学賞を受賞した。



三百年後、街頭ヴィジョンではニュースが流れている。
「本日、世界が完全に平和となりました。それに伴い、全国民に平和への貢献の証として、ノーベル平和賞が授与されました。おめでとうごさいます」



Copyright © 2009 虎太郎 / 編集: 短編