第79期 #12
―――不思議な夢を見た。
子どもの頃の記憶が、残像となって瞼の裏に映し出される。
中学生の僕は、親父とケンカして家を飛び出した。
向かった先は家から数十メートル先の公園。ブランコに腰を掛け、僕は夜空を見上げた。
見事な星空だ。
星空に吸い込まれそうになるというのはこういうことを言うのかもしれない。
ふと小さな子供が隣のブランコにちょこんと座っていた。
それが男の子か女の子かだったなんてどうでもいい。
「あのね、お星様にお願い事するとね、叶えてくれるんだよ。」
その子は僕にそう言った。
きっと僕はむしゃくしゃしてたんだろう。
そんな非現実的なことを言っているその子が憎らしくなった。
「そんなことあるはずないだろ?あの星は遠い遠い宇宙にあるんだ。僕らちっぽけな人間の願いなんか届くものか。」
中学生にもなって“星に願いを”なんて御免だと思った。
「現実を見ないと。星にそんな力があるんだったら、みんなお願い事をするさ。
テストの点数が上がりますように。とか、好きな子と隣の席になりますように、とか。だから僕は、信じない。」
流石に、小さい子供相手にムキになりすぎた自分が恥ずかしい。
その子は黒い大きな瞳をすこしだけ潤ませ、こちらを見つめた。
その瞳が、僕の中のもやもやをより増幅させた。
ブランコから飛び降り、石を蹴りながら帰路に立つ。
心の中ではその子のことがすごく引っかかっていたけど、僕は振り返らなかった――――
時計を見ると、まだ深夜一時だ。
隣には、愛らしいわが子が気持ちよさそうに眠っている。。あの子と同じくらいかもしれない。
僕は自転車に飛び乗り、あの公園を目指した。
今日も星は綺麗に輝いている。
あの子が何者だったかなんてどうでもいい。
ただ、今の僕に信じることが、願うことが許されるなら。
また、あの子に会いたい。