第76期 #20
すごく可愛いなこのナイフは。きっと少女たちの自殺用としてバカ売れなんだろうな。このソファもすごいな。こんなに死体を美しく寝かせるソファを考えてつくんだなイタリア人は。そんなことばかり考えてるイタリア人ってやっぱすごいな。
「ところでさ、これ知ってる?」
「なあにこれ」
「パンダメーター」
「ふうん」
「使った人のパンダ度が解るんだって」
「パンダ度?」
「その人がどれくらいパンダなのかが解るんだって」
「へえ」
「このボタン押してみて」
「あ、なんか光った」
「0824だって」
「なにその数字。0824ってどうなの? 低いの? 高いの?」
「1200がマックスだって」
「ふうん、じゃああたしはけっこうパンダだね」
「ぼくもやってみよう。えい。よし、いくつ?」
「0522って出てるよ」
「え、マジで? ちょっと見せてみて」
「はい」
「ほんとに0522だ。えー、おかしくない? 低いよ絶対」
「そうだね、ごめんなさい」
「いや、きみがあやまること無いよ。もう一度やってみることにしよう。えい。どうだ?」
「0442だって。下がっちゃった」
「下がっちゃったの? おかしいな下がっちゃうのは」
「ごめんなさい」
「いやだからあやまらなくていいって。しかしおかしいな。こんなに低いのは絶対おかしいよ。おかしい」
「ごめんなさい」
「ああもう、パンダメーターなんて買うんじゃなかった」
無言のまま街を歩く。ぐるぐると回る。吐くまで踊る。
犬と、その番犬がぼくらを見ていた。
犬はわん、と鳴き、その後に番犬がわん、と鳴いた。
わん。
わん。
がやがて
わん。わん。
を経て
わんわん。
になっていき
わわん。
になってまた
わん。
わん。
や
わん。わん。
や
わんわん。
になったり
わわん。
になったりを繰り返して
わん。わわん。わわん。わんわん。わんわん。
わわん。
となり、
わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。わわん。
がずっと続いたあと犬とその番犬は同時に鳴いて
わん。
になった。
一つになるってこういうことか、と思った。