第75期 #1
十五日未明、各界で著名人として知られるアンデッドさんが死去した。年齢は二百五十三歳だった。
自宅の自室でアンデッドさんが倒れているのを家族が発見し、救急車を呼んだが既に亡くなっていることが判明。遺体の状態を見てそのまま警察機関に通報した形となった。
警察では自殺・他殺両方の線が考えられるとのことで、変死事件として県警に捜査本部が設置され、捜査が始まっている。
初見の検死報告によると直接的な死因は原因不明の窒息死のようであるが、それとは別にアンデッドさんの体内から未知の毒物が検出された。
これは開発中の冥王星でつい先日発見された新種の劇毒物『サウロン』ではないかと見られている。
しかし新種の毒物である『サウロン』は冥王星基地とリンクし共有されたデータ上でそれと確認照合が出来るものの、地球上での生成は現在不可能な毒物だ。
先日の発見後、研究中の新種の毒物を乗せ冥王星域から発進した運搬貨物船もまだ地球へ帰航中である。
発見されたばかりで今だ未知の部分が多く地球上には存在もしないそのような毒物が、なぜアンデッドさんの体内から発見されたのかは依然謎のままだ。
またアンデッドさん自身は過去に耐毒強化施術を受けており『サウロン』に関しても多少の抵抗性があったと推測され、それにより毒物が直接的な死因にならなかったのではないかと目測されている。
この件に関して冥王星開発を担っている科学省と傘下の研究機関も大きな関心を示しており、警察機関への技術協力も目処に入れているとのことである。
他にもアンデッドさんの遺体には原因不明の斑点や傷跡などがいくつも残っているとのことで、因果関係などより詳しい検死報告の結果が追って急がれている。
記者の取材を受けた遺族の話によると、アンデッドさんは生前に「もうすぐ始まる」などと意味不明なことをしばしば口走っていたという。
近年体調が優れなくなってからは殆ど自室に籠もりきりになり、外部との接触を拒んでいたとのことだ。
警察ではそれらと事件への関連性が調べられている。
亡くなったアンデッドさんは様々な科学技術開発や文化的な作品を多く世に残しており、今年の連邦議会名誉殊勲賞候補の一人としても名前が挙がっていた。
なお故人による生前からのたっての強い希望もあり、その遺志に沿って葬儀・告別式は取り行わないとのこと。
通夜は二十日に近親者のみで済ませる模様である。