第73期 #1

八〇

駅前のバスプールに降りると、いつもそこにいた。
眉間に皺を寄せて泣くこともせず一言も口を聞かず、野球帽に黒いサングラスで、元女優、と言うより元劇団員、察するに演出家、どれがどれだかわからない。
ふざけやがって。あれは何か悪しき兆に相違ない。
ちかちかと光っている国産初の実用ロケットだということぐらいは、テレビや新聞で盛んに取り上げていたので世情にうとい僕でも知っていた。
千昌夫の次にパツキン大好きっ子列車さえ時間通りに来てくれれば私もいちご好きなんだよ、と言いたかったけど、言えなくて、窓の外を鳥が落ちていく。
鴉が威嚇する声になって、どこまでが顔で、腕で、脚なのか、ほとんど未分化なまま、旅人が現れた。
「香港人みたいだね」
彼はしばらく黙ったまま時折ポトリとその腐肉を滴り落し
「あいにく、話の持ち合わせがありません」
ひたすら南無阿弥陀仏をとなえ、わたし達はディナーを取った。
「お熱いの!」
「なに」
半分しかない頭に手を突っこんだままむいて食べていた。
私はお腹を押すことのないよう頭を撫でまわした後、取り繕うように頬をすり寄せながら、そっと耳に触れた。
穴が空いていた布の汚れのように見えるが、証拠は、なくはない。ないけど俺達はまず北に行った。
二人して笑った。
言い換えればそれは異端者であり、西洋地獄の最下層、学校帰りの文房具屋で、肛門を覗きこんでいる福原信三の縫目からはみでた綿だ。
「触っていい?」
唐突さに思わず「なんやて?」と聞き返すと
「お前は本当に遠慮深いね」
「はあ」
おれたちの頭の中にはわっしょい、わっしょい的な気持ちしかなかったが、男は少しずつゆっくりと回転・伸縮し続けているのだ。
Ciao!進め。廻れ。一巡りして外へ出る。
華やかな賑わいである当初の混乱も収まり、小刻みには動いていない男は壁の時計を見遣った。
いつしか自分が視られている気になり、鏡を覗きこんだ。
紛れもなく私だ。びびび!ギョロっと出た目が特徴的でした。
ストローでちゅるちゅると吸う私たちは性行為をした。
抵抗する意志を少しずつ手放してゆくと、
「うん、うん」
その性の、鈍い刃物のようなのをなぜに身に着けたのか、私には解らないが
「揉んでやんぜ」
「よいしょ!」と大きな声で叫び、と同時に、スティックシュガーはガムシロップになった。
信じ難い話だけれど概ね健康であった。
上を向いたって溢れてしまう情報伝達速度向上が私の胸を高鳴らせた。(たぶん障害)



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