第72期 #17

ローマ

 ダンサーが片目をつむり顕微鏡を覗いている。
 片目のライオンがモニターに。
 片目をつむりスナイパーはスコープを覗いていて。コンクリート壁に額を押し付けて。
 ミッドナイトハイウェイに、額を押し付けて。


 タイトル。


 友がこのところ立て続けに自殺していた。立て続く葬式にあくびが漏れ久しぶりに涙を流す。


 葬式が終わり真昼の街へ放り出される。
 最初に見かけたバレエスタジオへ。
「受付は少々お待ちください」
 公園へ行く。子供達と一緒に遊ぼうとするが無視される。
 三日程してから再びバレエスタジオへ足を運ぶ。
「遅刻です」
「はい」
「今度からはきちんとお願いしますね」
 防音扉の向こうからノクターン。
 二つ指ピアニスト。
 子供達が練習している。
 舞台の上には白壁と美しいローマの男。眩しい太陽が四つ。四つか。若い頃は沢山見たな。十も二十も百も。沢山見てしまった。光に容赦無く照らされた白壁。もたれかかり目を閉じる。
 シーツの海で目を覚ます。
 部屋の蛇口が壊れてしまっていて水が噴出していた。
天使みたいな少年工が水にまみれて直している。
 新聞を読む。
 眩暈に吐きそうになる。
「今度からはきちんとお願いしますね」
 日記を読む。
 眩暈に吐きそうになる。
「今度からはきちんとお願いしますね」
 午後、古い友達のジャーナリストが来てインタビューを受ける。
「何だよスーツなんて着て」
「さあ」
「それできちんとしてるつもりかい?」
「さあ」
「だせえな」
「ああ」
「で今度の映画のコンセプトは?」
「このスーツやるよ」
「マジかよ」
「ああ」
「悪いな。これで姪の結婚式はなんとかなりそうだ」
 ずるずると着替え、美術館へ行く。
 ライオン彫刻の前で気絶する。
 目を開ける。
片目の彫刻家に介抱してもらっていた。
「あなたはこんなスーツじゃなくて上半身裸にスカートが似合うと思う」
「そうかもな」
 カット、という声がずっと遠くから聴こえる。
「今度からはきちんとね?」
「ああ」
「今度からは」
「ああ、今度生まれてきた時はきちんとする」
 カット。
 ごとりと音を立てて路地裏にミサイルが落ちる。
 表面には沢山の写真が貼られている。写真写真写真。まるで美術館。
「今度生まれてきた時はきちんとする、生まれ変わったらきちんとするよ」
 皆で映画館へ。
新作の筈が昔撮った映画ばかりがかけられている。
片目を閉じる。
遠くにハイウェイの崩れ行く音。
カット。そう呟いて目を閉じる。



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