第72期 #1

迫りくる恐怖

 いつもと同じ帰り道。
「じゃあ、また明日ね。」
「ばいばい。」
 友だちの美紀と別れた後、一人で蒲田の道を歩く。鞄からウォークマンを取り出し、音楽をかけようと電源を入れる。しかし、画面は光ることはなかった。
「電池切れか…運、悪ぅ。なんか不吉だなぁ。電池変えたばっかりなのに。壊れちゃったかな。」
長い間、使っていて初めて起こった事態に由香は何か不気味な気配を感じた。音楽を聴けない退屈さが一層由香の聴覚を発達させる。すると、由香は背後から足音がするのに気づいた。
「タッタッタッタッ…」
 明らかに、由香めがけて早歩きをしている。
(え…変質者?)
不安になった由香は早歩きをしてみる。すると、背後の足音もスピードを上げ由香に追いつこうとする。
(やばい…絶対変質者。逃げなきゃ。)
決心した由香は早歩きから更にスピードを上げ、夜道を走った。
「ダッダッダッダッ…」
すると、背後の足音も走り出した。
(絶対、男じゃん…追いつかれるー。)
ポンッ。
由香の肩にごつい男の手が乗っかっている。
「きゃーっ」
男が息を切らしているのが肩に乗っかっている手から伝わる。
「はぁ、はぁ…あ、あの、こ…これ。」
男は由香の肩にかけていない方の手を広げてみせた。
「はっ?」
由香は予想外の行動に理解できなかった。数少ない街灯がその手をうっすらと照らす。暗闇の中から見覚えのあるものが浮き出てきた。
「電池…あ、あたしのウォークマンのやつ!!!!」
「あなたの後ろを歩いていたら転がってきたんです。」
「わざわざ、ありがとうございます。」
「いえいえ。そんなぁ…それだけな訳、ないでしょ?」
「えっ?」
男の鞄から光るものが…。
「きゃーっ」



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