第70期 #1

嫌いなこと

 夏になると憂鬱になる。台風が来ると高揚する。そして、秋晴れが続くとまた憂鬱になる。晴れが嫌いなのか? しかし、西高東低の冬が来て、寒い晴れが来ると何とも思わない。



新聞を見ると、落ち込んだ。今は晴れているが、午後雨が降るという天気がいいなぁと思ったが、今日は一日中曇天だった。降水確率は20パーセント。
 しょうがないので、早退する理由でもおきないかなぁ、と思いつつ着替えた。念のため熱も測った。平熱であった。
 グズグズしていると遅刻しそうだったので悪あがきをやめて、出発した。
「行ってきます」。

 中学校までの十分間、平坦な道。ノロノロとカバンを背負いつつ歩いた。自転車が猛スピードで駆け抜けていった。そんなに急ぐ必要があるかなと思って、時計をふと見て、「やべぇ」と走り出した。只今、八時二十八分。ホームルームまであと二分だった。

 ギリギリで駆け込んだ。担任はたまに早く来るので焦った。そんなことが杞憂に終わってよかったと思ったのも束の間、ホームベースの顔をした担任が入ってきた。
「この後水泳だけど忘れ物している奴はいないよな?」ホームベース(以下「本塁」)は見渡しながらに言った。
「僕の水泳パンツが無いんですけど……」声が後ろの方から起こった。たちまち、クラスはしーんとした。アヒルと呼ばれているそいつはクラスの嫌われ者だ。ひどいことに、「自分で探せ」と本塁も言った。実を言うと、海パンは誰かが隠しているのだが、アヒルも知っているのか、本塁にそれ以上言わなかった。言ったところで、本塁が担任とは思えない、ひどい扱いをするのだから。

 気づいているかもしれないが、水泳が嫌いだ。泳げないというわけではない。太もものキズを見られたくないのだ。右足の太ももの裏に、十字架のようにあるそのキズは、生まれつきあるらしい。どんだけ母親の中で暴れたのか知らないが、とにかく生々しい。持ち主の自分でさえ目を逸らすほどなのだから。

「あ、雨が降ってきた」


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