第7期 #15

告白

都心の高級レストランの一番見晴らしの良い席に、光と華はいた。
「ちょっと気取りすぎじゃないかしら」赤いドレスの華は、しかし落ち着いた雰囲気に満足顔だ。
「この時期は居酒屋も混んでいるから。華も騒がしい場所は苦手だろう?」タキシードの光は、馴れた手つきでワイングラスを構える。「今日は舌平目と黒毛和牛のコースがお薦めだそうだ。華もそれでいいかい?」華は笑顔で応えた。

コースも一段落し、食後の紅茶が出された時、光は窓の外を指差した。
「華、あれは何だろう」その先には1棟の高層ビルが不規則に窓を灯らせている。それを見た瞬間華は、思わず息を飲んだ。今まで不規則に並んでいた窓の灯が突然動き出し、整然とした形を作り上げはじめたからだった。

全ては光が仕組んだことだった。2ヶ月前、高層ビルの窓に絵と文字を書かせる計画を思いついた光は、オーナーとの交渉により協力を得ることにに成功した。その後、光は1ヶ月かけて文字のレイアウトを決め、更に窓の文字が一番よく見える場所の調査も同時に行った。オフィスビル内の一軒のレストランからの視界の素晴らしさを見出してからは順調だった。日時と席の予約を入れ、コースの長さから求まるベストの時刻を先のオーナーに知らせれば準備は完了。当日は予定時刻通りに入店、コースを選べば食後に丁度イベントが起こるという仕組みだった。

30秒後、窓の灯は一つの文章を完成させていた。華はその様子を呆然と眺めていたが、それは単にその光景への驚きだけが原因ではなかった。
「ゆい…じょう?」
華の意味不明の言葉は、光を少し動揺させた。おもむろに取り出した電子手帳と窓の外とを見比べて、光は頬を押さえた。「おかしいなあ、どこも間違ってはいないのに…」何かに気付いたらしい華の笑い声が店内に広がったのは、その5秒後のことだった。


「…この様に、光君は非常に豪気で寛大、信頼できる男であることは、華さんが一番ご存じでしょう。あとは華さんが光君の漢字の学習を手伝ってくれれば…」披露宴において、光の友人が贈る言葉に、新郎は茹で蛸の様に真赤だった。
挨拶の最後に友人はまとめに入った。「それでは皆さんご一緒に…『けつむすめオメデトウ!』」
『けつむすめオメデトウ』の連呼は会場全体に響き渡った。逃げ出したい気分の光が後ろを見ると、そこには2ヶ月前に映し出された例の高層ビルの写真が大写しで飾られていた。


『結娘しよう!光』



Copyright © 2003 Nishino Tatami / 編集: 短編