第67期 #1

究極のオムツ

「今回の新商品こそ、救世主になること間違いありません!」
 会議室で企画部長のY氏が胸を張り、堂々と宣言をした。
「これが究極の紙オムツです!」
 Y氏の合図とともに、新商品の紙オムツをつけた赤ん坊が、ベビーカーで運ばれてきた。なんの変哲もない紙オムツ。だが、Y氏は自信満々に赤ん坊を抱きあげ、プレゼン用の机の上に座らせた。
「今までの紙オムツの弱点がなんだったか、お分かりですか?」
 唐突な質問に、社長をはじめ重役たちが、顔を見合わせて首を傾げる。Y氏は、それを見て満足気に頷いた。
「実は今までの紙オムツは、使い終わった後の処理が大変でした。トイレットペーパーのようにトイレで流すことが出来なかったので、普通ゴミとして処理をしなければいけなかったのです。この点が問題点でした」
「それで?」
 重役の一人が興味深そうにY氏に訊ねた。Y氏は興奮気味に話を続ける。
「この毎回出てくるオムツの後処理が楽になれば、今の主婦層にウケるのは確実です。そこで考えたのが“水に流せる紙オムツ”です」
「おお!」
 会議室がどよめいた。
「この紙オムツは、みなさんが用を足してトイレットペーパーを流すのと同じように、水に流すことが出来るのです。今までの紙オムツでは出来ませんでしたが、今回、我々の開発チームが、その夢のオムツを作り出すことに成功しました」
「確かに、今までの紙オムツは水に溶けなかった。無理に流して詰まらせたという話は、私も聞いたことがある」
 社長の発言に、Y氏はますます自信をもってオムツのプレゼンを進めた。
「無理に流してトイレを詰まらせるのはよくありません。環境にも悪い。しかし、この新しいオムツがその問題を解決してくれるのです。では、もっとよくご覧ください」
 Y氏は机の上に座らせていた赤ん坊を、オムツがよく見えるように抱き起こした。
 そして次の瞬間、会議室の空気が凍りついた。
 オムツがすでに半分、なくなっていた。
 一体、なにが起こったのか。目を白黒させながらY氏は紙オムツを注意深く眺め、そして青ざめた。なんてことだ。目の前の赤ん坊が、うれしそうにおしっこを床にむけて発射しているではないか。
 水に流せる紙オムツ。
 目の前で起こっている状況に、血の気がうせていくのをはっきりと感じながら、それでもY氏は何事もなかったかのように、こう説明をした。
「いかがですか? おしっこの場合だとトイレに流す必要もありません」



Copyright © 2008 八海宵一 / 編集: 短編