第65期 #17

タイム・ワープ

『タイム・ワープできます』
 町でみかけた不思議な看板。いつも塾の行き帰りに通っている道のはずなのに、ボクは今日初めてそれに気がついた。なんだか、すごく興味がわいてボクは看板をじっとみつめた。でも。でもタイム・ワープなんてできるわけないよな。どんなに科学が進歩しても、タイム・ワープはできないって話聞いたことあるし。
 そのまま塾に行こうとしたけど、気になって気になって、窓の外をウロウロしていると、
「タイム・ワープに興味ある?」
 突然その窓がガラってあいて、女の人がボクに言った。ボクはびっくりして、うわあっと一歩下がってから、女の人に聞いた。
「本当にできるの?」
「もちろん。ただし未来にしか行けないけど。どう? タイム・ワープ経験してみる?」
 誰でも簡単にできるわよ、お金なんかいらないわって言葉に誘われたわけじゃないんだけど……ボクはその店に入っちゃったんだ。店の中はまっくらだった。ちょっと後悔しかけたとき、「ストップ。そこで止まって」と女の人の声がした。
「どれくらい先の未来がみたい?」
「こ、高校生ぐらい」
 兄ちゃんが今、高校生ですごく楽しそうだから、ボクも早く高校生になりたいっていつも思ってたんだ。
「じゃあ、足を軽く一歩前に踏み出して。……そう、それでそのままじっとしてて。すぐにタイム・ワープできるわ」
 その言葉通りかわからないんだけど、ボクは意識がすーっと遠のくのを体験したんだ。

「……ル、トオル。起きろよ」
 聞き覚えのない太い声に、ボクは飛び起きた。とたんにどっと笑い声。え? ボク制服着てる? ここ教室? 高校?
「トオル君、教科書38ページ」
 机の上に置いてある教科書を、ボクは慌てて手にもったけど―読めないよ。ボクまだ小3だぞ!? ボクは「読めません!」と叫んで教室を飛び出した。後ろで呼びとめる声がしたけど、かまうもんか。ボクは夢中でタイム・ワープの店まで走った。店のドアをバタンとあけ、ボクは暗闇に叫んだ。
「もとに戻してよ!!」
「……特別よ。後ろに軽く一歩下がるの」
 ボクはすぐに言われた通りにした。

 看板の前にボクは立っていた。そのことに気付くと、ボクはダッシュで家に帰った。夢だと自分に言い聞かせようとした矢先に「どこ行ってたの?!」と母さんの怒鳴り声。
 ボク、今日は塾行ってないんだけど。   


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