第62期 #15
私は起き上がる。
今日もこの膨大な瓦落多の山から目当ての小瓶を探さなければならない。取りあえず昨日探索を終えたばかりの小山に放尿。膀胱が空になると胃の腑も空である事に気付いたので、周囲の瓦落多から食えそうなものを探す。ほどなく見つけたのは真空パックされた黒皮餅。剥いて喰う。
ここはその昔、鏡山などと呼ばれ、地元の人々の信仰対象になっていた事もあるらしい。しかし16年前の事件後、度を超して相次いだ不法投棄のせいで塵芥の山と化してしまった。
私は横たわる。
今日もこの膨大な瓦落多の山から目当ての小瓶を探し出す事はできなかった。取りあえず今日探索を終えた所に適当な空き地を確保し、眠る。昔の友人の弟が思いのほか無礼な輩で、それを指摘できない自分にやきもきする夢を見て目覚めれば未だ夜。
本当に小瓶はあるのかと、幾度自問自答してきた事だろう。しかし、その度に強烈な耳鳴りが、私を襲い、考えを、中断せざるを得なくなる。小瓶の精の仕業だとあの爺さんは言っていた。姿を見なくなって暫く経つ。こんな事になるのならばあの時、火にあたらせてやるんだったな。何なら酒でも分けてやればよかった。震えながら「歩いて歩いて歩き尽くした感のあるこの庭園ですが、実はまだ未到の林があるんです」等と言ってたっけ。今頃実はそう遠くない瓦落多の底に埋もれて、永遠に暖をとっているやも知れない。それともとっくに小瓶を見つけて此処からオサラバしている、か。
そりゃ無いな。
おお、最前から奴の考えている事がそっくり俺の頭に流れ来る。勿論これは小瓶の精の仕業に他ならない。俺は俺の小瓶マイオウン小瓶を手に入れて青年期にまで若返った。もうピンピンです。奴に見つからぬよう此処からオサラバしてやる。ついでに奴の小瓶まで見つけた事は内緒で。あ、中身は捨ててやった上に少女趣味全開の手紙を詰めて濁海に流したのも内緒でひとつ。
そして家路。ほの暗い道端、壊れた信号機の根元。
背の高い草に紛れ、体操着の人影が、ぺたりと地べたに腰をおろしていた。両手に黒いプラッチックの衣紋掛を持って微妙に上下と揺らしている。
こんな夜に子供が危ないな、と顔を見ると老婆だったので、ヒョッと肝が冷えた。
その俺の冷えた肝の匂いを嗅ぎ付けてやって来たのは煤けたペリカンと黒犬。と思ったらハシビロコウとマレ−熊だった。しかも瓶や釘をバギバギ音立ててはんでいた。