第6期 #1
だって僕,彼と生まれたんだ。
僕が生まれた日に彼も生まれた。
だから,今日,花を咲かせる。
「何度言えば分かるの?あなたにはまだ,早すぎるのよ」
僕の妖精が,いよいよ癇癪を起こして叫んだ。僕だって分かってる。まだ僕には早いってこと。だから,止められることも予想はしてた。
「でも,君がいなくちゃ,僕1人じゃあできないよ」
何度目かの同じセリフ。
「僕は花を咲かせたいんだ。ケイに贈る為に!」
僕と同じ日に生まれた少年。僕が植えられてる家の男の子,ケイは,毎朝僕におはようを言い,かるくなでてくれる。ここ最近は庭に姿を見せなかったけど,特に珍しいことでもないし,風邪でもひいたのかな,なんて大して気にしていなかった。だけど,今朝,ケイの母さんが洗濯物を干しながら,真っ白なシーツに隠れて泣いているのを見たんだ。それからしばらくして,家の中から低くうなるようなお経が聞こえてきて,たまたま開けられた障子の隙間から,ケイの屈託のない笑顔が見えた。黒いリボンに縁取られた,写真のなかのケイの笑顔が。
「僕は,ケイと一緒に生まれた。だから,ケイへのお別れに,僕も花を咲かせたいんだ。お願いだよ,君の粉がないと植物は花を咲かせれ ない」
「でも,でも分かってるの?あなた,花をさかせたら……」
「分かってるよ。僕,それでもケイに僕の花を贈りたいんだ……」
数時間後,1人の少女が庭を指差して叫んだ。
「おばさん,ケイ兄ちゃんのおばさん,お花が咲いてるよ」
「まあ。竹が花を咲かすだなんて……。」
「珍しいの?」
「とてもね。竹はね,花を咲かせるとすぐに枯れてしまうの。一生に一度花を咲かせるのよ。ケイは,あの竹をとても大切にしていたわ」
涙をこらえ,声を震わせながら,花の重みで首を下げた竹から,やさしく花を切り取った。
「あなたもケイと逝きたかったのね……。」
静かに眠るケイの隣にそっと並べる。
「ケイを,よろしくね」
だって僕,彼と生まれたんだ。
僕が生まれた日に彼も生まれた。
だから,今日,花を咲かせる。
だから,今日,僕はケイと逝く。