第59期 #1
私は真っ白な部屋に居た。
床も天井も白く、四方の壁も白い。
ドアも窓もない。
広さは4畳半くらいだろうか。狭い。
ただ目の前の壁に
濃い灰色のインターホンがポツリとある。
何故、私はこんな空間に居るのか。
そもそもどうやってここに来たのか。
何故、インターホンだけがあるのか。
少しの間考えてはみたものの
ともかく誰かと会話がしたくなったので
そぉとボタンを押した。
ピンポーン。
ありきたりな音が響く。
・・・・・。
返事はない。
もう一度ボタンを押す。
10数える間に返事がなければ
もう一度ボタンを押そうというルールを勝手に決めて
心の中でカウントし始めた。
1、2、3、4、5、6、7、
8、
9、
「はい。」
低い男の声が
すでにボタンの上にセットしてあった
私の人差し指を押し返した。
「あのぉ。ここから出たいのですが。」
私は単刀直入に尋ねた。
「無理です。」
ブッ。
・・・・・。
男は一方的に通信を終えた。
その男がどういう人間かは知らないが
その態度に私は瞬間的に腹が立った。
ピンポピンポンピンポピンポピンポン
これでもかとボタンを押してやった。
「・・・はい。」
「無理ってどういうことですか?」
私はなるべく怒りを抑えるようにして尋ねた。
インターホンの向こうの男はしばらくの沈黙の後、こう答えた。
「その部屋があなたの『才能』なんです。」
ブッ。
またしても一方的に通信は途絶えた。
ピンポピンポンピンポピンポピンポン
次の瞬間、
私の中で怒りとはまた違う別の感情が湧き上がり
夢中でボタンを押し続けた。
男の返事はもうないであろうと直感はしているが
このボタンを押すのを止めてしまうと
何もかもが終わってしまうような気がしたからだ。