第56期 #30

だしません

いや、そもそもここがアンダーグラウンドと呼ばれていること自体が滑稽なのだった。
名前があるということは呼ぶ者がいるということを意味するが、ここには八色の小人がいる。赤青黄緑紫灰黒白色の小人が同じ色で50人ほどの班になって八方を掘削している。といっても一般の全小人が同時に働いているわけではなく20人ずつ交替でトンネルの中心地で休息を取っている。ちなみに中心点はSP(Starting point)と呼ばれている。
一定の周期で小人たちはUGの体積を報告する。ちなみにUGの名が呼ばれるのはその時だけだ。
僕は有線の交換機である。SPで八色の小人の連絡を中継するのだ。
小人たちの連絡はとても軽快で音楽でも聞いているようなのだが、その雰囲気を伝えることはできないだろう。小人たちの働きっぷりを想像するのも面白い。
「赤8.42.126.23X2,5へ黒土」「緑13.137.89.218Zに岩盤、桜4号使用5ビョウ」「灰23.65.167.45.X3.1へ黒土」
連絡は私を通して全小人に送られているようだ。小人の連絡を聞いているのは楽しい、連絡は私を素通りする。
ここらは真黒だ。何も見えないので明るさのことは知らないが、土壌が黒土ばかりなのだ。小人たちはもうずーっとトンネル掘りつづけているが岩盤と黒土以外の報告を聞いたことがない。小人たちはアリの巣みたいにグニャグニャトンネルを掘り続けどんどん住処を広げてる感じだ。掘った土がどこ行くのか見たことないので知らないがきっと小人が食ってるんじゃないだろうか。それだとつじつまが合う。

「何もないよ。」
という感じのことを男は言った。
ときどき混線が入る。地上のものだろうか、いつも同じ男の声で、最初は何を言っているのかわからなかったのだが最近意味を取れるようになってきた。
「いやだよ。めんどくさいし。」
とおとこはまた言った。これは僕に言っているのではないかと、僕は返事をしようか今考え中なのだ。

アンダーグラウンドは全く地上につながっていない。小人たちはずっと閉じ込められている。ここから出れないのなら、なぜここを地下世界などと呼ぶのかわからない。いつか連絡の語尾に「地上」がつくことはあるのだろうか。もし僕が地上を見つけたとうその報告をしたら小人たちはどんな反応をするだろう。そんな悪戯を考える。


(ずっと小人と呼んでいるが当然僕は彼らの姿を見たことはない。)



Copyright © 2007 藤舟 / 編集: 短編