第55期 #1

ディスカッション

ディスカッション、それは討論。
ある論点に関して、二手に別れ、主張し、納得させること。


あるカフェ。
私は、一杯の珈琲をここで飲む為に早起きをし、会社へ向かう。
それが日課だ。

ある日の朝。
いつものカフェの奥の席で、二人組みが何やら話していた。

A「私は、貴方と討論している。」
B「私は、貴方と討論していない。」
双方の主張。

論点は何か。
討論とは何か。
論点があるのなら、これは討論なのではないか。

A「では、我々は何をしているのですか。」
B「私は、貴方の主張に反対し、貴方は私の主張に反対している。」
A「それを討論と呼ぶのではないでしょうか。そして、それこそ私が主張している事です。」

Bは言った。

我々の行為を討論だと仮定する。
仮定が正しいならば、私の主張は成り立たない。
私の主張が成り立たないならば、討論が成り立たない。
仮定が誤りならば、私の主張は成り立つのではないだろうか。
私の主張が成り立つのならば、我々の行為は討論ではない。

A「貴方の負けだ。」
B「何故です。」
A「貴方の主張が成り立つ時点で、これが討論だからです。」
B「いいえ、討論ではありません。」

討論だろ。

私は、すっかり冷めた珈琲を飲みながら、そう思った。



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