第54期 #7

つげ

 トプンと音がして、私は海の中に頭を沈める。耳の底で音がする。頭を下にしようとして足が空気を掻く。
 海に来たのは五年ぶりぐらいで、泳いだのは三年ぶりぐらいだった。二三回平泳ぎで掻いて波に浮かんでみる。大丈夫だという感じがする。記憶の中の海と今在る海をゆっくりあわせてしまう。慣れてしまえばいいのだ、慣れてしまえば驚くべきものなんて何も無い。
 「幼いなあもう。」
 大学を中退して、ある忙しい日々が突然終わって、でも今考えると何もしていなかった気がする。海から出ると肌寒い。ここの砂浜は歩くと足がちくちくするのだ。海は好きだけれど、海にはくらげやくらげみたいな良く分からないものがいて突然足に絡みついたりするからいやだったんだ、と思った。
 こういう気分のときは少女漫画を読みまくるに限る。最近は何処の街でもマンガ喫茶とネットカフェがある。関係ないが前適当にネットカフェに入ったら周りが中国人ばかりでびびったことがある。
 ある漫画で女が海に来ていて「一人で来た方が気が楽でいいわ」といっていた。私は海に一人で来たが比較的楽でもない。



Copyright © 2007 藤舟 / 編集: 短編