第53期 #6
彼女が忘れていってしまったマフラーが、もう二週間も枕の近くに置いてある。僕達はもう別れてしまっているみたいで、
本当はこれを早く捨てて歩きたい。影みたいについてくるから。しょうがないので巻いてみたりもした。
そして、首を一本折ってようやく、終わる。
そうなったら虚しさだけが、いつまでも込み上げてくるんだ。何回も、夕方に君に向けて言ったことが、いつまでも耳から離れない。そこで僕は、ナイフ突き付ければよかった。何回だって自分の醜い部分を切り落とせるから。
何度も何度も膿を出しつくす。綺麗になりたい。できるだけ綺麗になりたいんだ。
そうじゃなかったら、美しくなかったら、綺麗じゃなかったら、生まれてきた意味なんかないから。
損ばかりで相手にされないし。そうだって。風を受けて髪が浮いてその顔が誰かの目と合うと、アウトされるし。もう、嫌だから。しょうがねぇから、膿を吸い出してくれ。何度だって殺されるごとに生きかえらせられる。それを繰り返した後、うまくいけば彼女と会える時間がやってくることがあるかもしれない。ペンチで足の指を一本一本、握り潰す。それが全部終わるころ、ようやく、月が僕のものになった。ようやく、世界が変わり始めた。ようやく、すべてが滅んでいく。
僕は平気な顔で、なんのためらいも無く彼女の胸を触りながら、眠りにつくんだ。
朝も夜も、俺一人、そこで、俺は、まぁるい月を、まぁるい蛍光灯で確認する。
高層ビルが威張りながら、街を独占する。俺は蔓延るビルたちに向けて、ダイナマイトを仕掛けようとする。ほら、あいつらが、我が物顔で居座ってるのに、僕らは心無くして寄り添って過ごしてる。みんなが夢中になって、それぞれ違うモノやヒトに夢中になって過ごしていく。
悲しみを嘔吐と一緒に排水溝に流し捨てても、また雨になって戻ってくるんだろう。そんなことよりも、いつも似てる感じの人を目で追ってしまう。
「その癖、治した方がいいよ。」っなんて、分かってるけど意識してできるものじゃないから。
遠くで猫がひかれてる。近くでは鳥の首を食っている。そして、僕はすべてを貪って後から出す。星が消える前に、そう長くはない、時間の中に。
僕は君の心と、うまく適応させるために震えるから震えるから
もう少しだけ居させてくれよ。朝になるまで消えないで。
ほんの少しだけでもいい、一緒にいてくれ。もう一瞬だけ。
この部屋から二人いなくなる前に。