第53期 #14
「気持ち悪い」
地球は今も凄いスピードで回っているんだ!と大声で叫ばれたってうざったいだけのように、今の私にそんなことを言うこの人はどんなに無神経なやつなのだと考える。
しかし、結局反論することも彼女を放棄することも出来ず、私はこうして滑り台のてっぺんに立って、悲しく呻いている彼女を見下ろしている。
「なにがどうした」
「回りすぎた」
彼女は今、何本か突っ立っている鉄棒に宙ぶらりんになっている。ぴくりとも動かない。30秒前にはぐるぐるぐるぐる、嫌なくらいに音を立てて回っていた彼女が。
「ばかじゃないの」
「ばかよ」
分かってるよ、と言うと怒られそうだったから、私はそれ以上彼女を見るのをやめた。空が青い。青くて汚い。まるでうみのいろ。うみのいろはそらのいろ。
「生きているのに意味なんかないわよねえ」
突然、宙ぶらりんな彼女が言った。長い髪の毛のうちの3分の1が、すでに地面についている。それさえも気にしない彼女は、きっと神様が育てた子供なのだと思う。
「死ぬために生きるって聞いたことがある」
死ぬために生きる。
なんてばかげた考えなんだろう。自分でも呆れる。だって、自分はそんなこと、ちっとも思っちゃいない。それを説いたやつは何も知らないやつだ。偽善者だ、と思う。
滑り台から吐いた小さな溜息をひとつも逃さないように、彼女は言った。
「ばかげてる」
びっくりした。きっと私と彼女は一心同体だったんだと思った。ふたご座なんだ、私たち。きっと。そして、こいつは無神経なやつではないのだ。そうだ。だって彼女は神様が育てた子供なのだから。
「うん、そう……ばかげてる」
滑り台から、もう一度だけ彼女を見た。もう宙ぶらりんな彼女じゃなかったけど、やっぱり彼女の髪の毛は長かった。
「もう、帰ろう」
「そうだね」
私たちは、静かに公園をあとにする。
そらのいろが、変わり始めている。