第53期 #1

かぴばら

さてさて
今ネットで「かぴばら」と検索しているのだが……
検索結果約3020件。幾つかのサイトをのぞく。
表示された「かぴばら」の写真を見て、僕は2年前に学校行事で行った北海道 A山市 A山動物園で会った一匹の「かぴばら」を思い出していた。
 
平日にもかかわらず来客は多かった。
そのせいで人気の動物は人ごみで見えず、一人退屈していた。
何気なく園内地図に目をやる。「クモザル&かぴばら館」というのがあった。
クモザルという響きに、興味を持った僕は早速そこに向かった。
気がつけば雨が降っていた。僕は着ていたパーカーのフードを被る。
 
クモザルは雨のために外の遊技場でなく館内で眠っていた。
クモザルが想像とは違ったので僕はがっかりした。
 外に出て遊技場を見ると奴はいた。
なんてふてぶてしい態度だろう。
ああ、小突いてやりたい
眼を細くし、こちらをじっと見つめてくる。「見てんじゃねぇよ」とでも言っているかの様な顔をした「かぴばら」に僕は話しかけてみた。
「そんな狭いところにいて気分悪くないかい」
「そりゃあお互い様だろう」
かぴばらが返してきた。見た目通り生意気言う奴だ。僕も言い返す。
「どういうことだよ」
「寒いなぁ」
「おい」
「腹がへった。何か持ってきてくれ」
「聞いてるのかよ」
「こんな日はじっとしているのが一番だ」
まるで会話が噛み合わない。
人と動物なんてこんなもんか。その場を去ろうとした時。
「人と人が解りあうことなんて無理なのさ」
奴が言った。
人同士じゃないだろが。そう突っ込もうかと思ったが。
「元気出せよ」
そう言った。
こいつもしかしたら僕を励ましてるのか
殆ど閉じた瞼の向こうの輝いた眼を一瞬、僕は確かに見た……様な気がした。

高校に入学した僕は、友達と呼べる友達ができなかった。
親しくなった奴はいたけど、皆どこか一線を引いているような感じがした。
そんな気持ちが今回の動物園見学で、僕を一人にしていた。
最も、僕自身も何処か心の奥に一線を引いていたのかもしれない。

俯いていた顔を上げると、細くしていた瞼を完全に閉じてかぴばらは眠っていた。
ちらと眼を開けて
「さっさと行けよ」
という顔をする。
時計を見ると、集合時間5分前だった。
「じゃあな。明日晴れるといいな」
そう言いながら僕は奴に背を向けた。
「今度来る時は餌でももってこいよ」
そう返してくる。
僕には、今度来るときは友達でも連れて来いよと言ったように聞こえた。
様な気がしたのだった。



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