第51期 #3

まっすぐに見ろ。

登下校は何時も一人だった。僕らの地元は郊外で、田んぼの中ところどころ再開発されていたりするところに家が集落になっているのが良くあった。普通はその集落ごとに登校班が作られたりするのだけれど、僕の所は偶然皆子どもはとっくに成人しているような家ばかりだった。でも僕は一人で考え事をしながら、国道沿いをいくのは嫌いではない。
その日は寒かった。まだ少し汗ばむくらいだろうと思っていたところにふと来た秋の寒さで、外に飛び出た僕は、やっぱり戻って上着着てこようかと思ったときには、もう戻りたくないくらいの距離にいた。秋に不意打ちを食らった形だ。
 遠くにビニール袋のようなものが見えて、近づいていくと黒い猫の死体だった。
道路で轢かれてから歩道まで這ってきていた。下半身が完全につぶされていて、しかし顔は綺麗に見えた。僕は少し息を荒げて周りを見回したが誰もいなくて、とりあえず携帯のカメラで撮って友達に送ってみた。
歩道の上に首輪のようなものが落ちていた。轢かれた時に取れたんだろう。派手派手しい金色の首輪だったが、朝日を反射してきらきら光る。何となく、拾ってそのままかばんに入れた。
目が動いた様な気がしたので猫を良く見ると蛆が沸いている。僕はそのまま走って学校に行った。
遅刻した。
席に着くと前の席の本田がいなかった。そういえばメールの返事も来ていない。ふと思い出して、さっき撮った猫を見てみると、なんなのだろう、最初の驚きの消えた僕は意外なほど不吉な印象を受けた。グロテスクと言うよりは邪悪に見え、邪悪と言うよりは悪意に見える。朝からこんなもの本田に送らなかった方が良かったかもしれない。
後ろの奴に聞いてみたら本田は今日は風邪ということだった。
「て言うかさあ、お前今日何か臭くね?」「うっそ。」
確かに何か臭い。きっとさっきの猫の臭いだけど、手を嗅いでも何も臭わないのは当たり前で、腐った猫を触ったりしていたわけがなく、あの拾った首輪が臭っているのだ。
大急ぎで鞄をあさる。確かに鞄から臭いがする様な気がしてきたが一向に見つからない。
僕は教室を出た。トイレに行って(他に行く所が思い浮かばなかった。)しかしいくら探しても首輪は見つからない。携帯が鳴って本田君から返事のメールが来た。
「最悪。」だそうだ。
トイレの鏡を見ると、さっきの首輪が自分の首で光を反射して光っていそうな気がしたのは、やはり気のせいだった。



Copyright © 2006 藤舟 / 編集: 短編