第48期 #8

ワクワクワールド

 ワクワクワールドの園内循環バスは三十分に一度動き出す。
 ふと何か思いついたように突然動き出す。
 ぐねぐねと曲がり道を行き、展望台のついている中腹部で少し休憩すると、あとは慣性にまかせながら、ゆっくりと降りてくるのだった。一周するのにだいたい十分もあれば事足りる。ワクワクワールドはとても小さい。
 ワクワクワールドは山の上にあった。都会の中であまった土地というのはそんなところばかりだった。そこに小さな動物たちをはめこみ、すぐ横に小さなゴルフ場を作った。そしてその間に展望台が備え付けられた。
 週末には中年の男性のグループが併設されているゴルフコースへと押しかけたが、ワクワクワールドのほうはがらんとしていて、動物たちの鳴き声と園内循環バスのエンジン音だけがひびいた。
ワクワクワールドは入園客が少なかった。動物達だけがただ毎日をぼうっとして暮らしていた。彼らは時折くる入園客を喜ばせたり楽しませることなど覚えなかった。ただ毎日飼育係に与えられたエサをむさぼるだけで、それしか知らなかった。
 


 ある日、園内をけだるそうに巡回するバスが消えた。バスに親近感を覚えていたうさぎのさくらんぼはとても胸が苦しくなった。

 またある日、園内が一斉にきれいになった。
 係員がぼうぼうに伸びている草や木取り除き、そこらあたりに落ちている動物達の糞もかたづけてしまい、小屋はホースできれいに汚れが落とされた。そしてそれらの作業が終わると、係員は道具を車につめ、消えていった。

 動物達は自分のにおいが消え、驚き、慌てふためいた。

 ロバのケンキュウネッシンなどは糞尿をたらしながら歩き回っていた。
 子豚のユキにいたっては小屋でしくしくと涙を流していた。
 いたちのりんごは丘の芝生の上でじっと動かなくなった。
 うさぎのさくらんぼはただ、神経質に小屋のはしからはしを行ったり来たりしていた。



 そしてその次の日。

 ワクワクワールドに初めて雪が降った。
 うさぎ小屋からうっすらと深夜から降り積った。いたちのりんごは雪が降りだすと、あなぐらに戻り、それっきり出てこなかった。子豚のユキは降ってきた雪を見て泣くのをやめ、したを出して、雪がその上にのるのをじっと待った。
 ロバのケンキュウネッシンの鼻の上にはらりと雪が舞い降りた。
 けれど、ケンキュウネッシンはぴくりとも動かなかった。



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