第46期 #8
出かけようと思って鍵を探していると、どこからともなく封筒に入ったガス料金の請求書が現れた。どうしたわけか未開封だった。
そういえば先月はガスに限って払っていなかったのではないかと俄に胸騒ぎがしつついやあ今月はなんだか余裕だなあなどと喜んでいた自らの浅はかさには驚き、それよりも銀行口座からの自動引き落としにしようしようと思っている内に一年以上経ってしまったのには何か人知の及ばない強大な悪意のようなものが影響しているのではないかと気掛かりで、複雑な胸中と相成った。書き上げたまま放ってある申込書が明らかに部屋のどこかにあるが、それを探す前に銀行に行ってくるべきだろうと思われた。合併によって名前が変わってしまったので、新しい用紙に書き直すよう言われるはずだった。
銀行といえばもう長い間記帳していなかったので、いずれ印字音に耳を傾けながら一、二分立ち尽くしに行かなければならなかったが、通帳が目につくところにあればとっくに記帳しているのだから、ついでに探しておきたかった。
ただ、曖昧な記憶の告げるところによれば鍵の在りかと通帳のそれとは大分離れていたので、差し当たっては鍵を優先することにした。
勿論記憶が常に定かならこのような状態に陥るはずもないことは承知しているが、かといって人は自分を疑ってばかりでは生きていかれないのではないかと私は声を大にはしづらい物件の中心で呟いた。しかし呟いたと思い込んでいるだけで実際は全くの無言であったかもわからない。いずれにせよ、床に散らばった紙やビニールやプラスチックはその間擦れ合っては喜んでいるような怒っているような物音をたて続けていたから、私はその部屋の住人として優良であったとはいえない。
テレビの天気予報を見ながら一休みした。お天気お姉さんにもういつも大荒れですっきりとしないんだからと部屋を片付けつつ叱られたり大型で強いかと思ったら随分速いスピードで私の上を通過して行ったのねと二人あてもなくさまよいながらたどり着いた星の綺麗な丘で抱き合ったまま甘く包み込むように叱られたりする妄想に束の間浸っていると著しい虚脱感や無力感がなんかこうアレで、いつものように探しものが手の中に転がりこんできた。
そして私は労働に赴き、月水金と三度続けてゴミを出し忘れた。