第44期 #1

de-bu to-be

「頑張れー!」

 クラスのみんなの声援がどこか遠くから聞こえてくる。ほんの少ししか離れていないところからなのに、耳にフタがしてあるみたいに、壁の向こうから聞こえてくるみたいだった。

 体育の時間、走り高跳びの授業中。
 僕は体育が……運動が苦手だ。いや、大っ嫌いだ。
 気が付いたら僕は『デブ』になっていた。小学生になって友達が出来て、あだ名が『ブッちゃん』だとか『ぶーやん』て呼ばれるようになって初めて、周りにはそう見えるんだってことに気がついた。
 正直ショックだった。
 おかわりは大好きだし、おやつもいっぱい食べる。外で遊ぶよりも、家でおやつとコーラとそしてゲームをするのが大好きだ。
 デブだけど、友達には『力持ち』だとか『優しそう』だとか言われて、悪いことばかりじゃなかった。

 そう、体育の授業以外は……。

 他のみんながポンポンと軽々バーを飛び越えてゆく中、僕だけは隣でゴムひもを飛び越える練習をさせられていた。
「よーし、今からみんなの記録会をやるからな!」
 担任の先生は、みんなが一斉にあげた悲鳴と歓声を満足げな笑顔で受け止める。
 ゴムひも跳びをいきなりの卒業。そしてそのまま、最後の最後に一番低い高さの僕の番。
 みんなは体育座りで息をのんで見守っている。僕の足は緊張でガクガク。心臓はうるさいくらい耳のすぐそばでバックンバックン鳴っていた。赤と白のシマシマの棒が僕のゆく先を通せんぼしている。
「頑張れ! 大丈夫だって!」
 大丈夫じゃないってば! 勝手なこと言うな!
「ほら、思い切り飛んでみろ! 怖がるな」
 先生が背中を軽く押す。僕はみんなの自分勝手で無責任な声援から逃げ出すように走り出す。

 ドッドッドッ……。
 上下に激しく揺れながら赤と白のシマシマが目の前に迫ってくる!

 ……僕は、ふかふかのマットの上で大の字になって青空を見上げていた。
 おでこからこぼれた汗が鼻をムズムズとくすぐる。もう、どうでもいいや!
 僕はただ見上げた空の雲の隙間を、ひと筋の白い線を描きながらすり抜けてゆく飛行機の姿を、いつまでもいつまでも見つめていた。



Copyright © 2006 / 編集: 短編