第40期 #5

冷たい世界

暗い部屋の中で少女はテレビを見ている。砂嵐しか映っていないテレビが発する光が、少女の周りを白く染めている。テレビと少女しか存在しないこの部屋は、現実から隔絶された一つの世界とも言える。
この世界に篭ってどれほどの月日が経ったのか、今現実では何が起こっているのか、少女はそんなことを考えたことは無かった。

少女は現実を否定した。
少女は他人を拒絶した。
現実は下らない。最後は決まって悪が得をするから。
他人は信用ならない。人前では綺麗事ばかり並べ立て、裏では自分だけが得をすれば良いと思っているから。

少女は善と悪について考える。
少女は生と死について考える。
相反する言葉、どちらかが欠ければもう一方も消える。私が善いことをしても、誰かが悪いことをしなければ、誰も私が善だとは気づかない。誰かが死ぬから、私は生きていることを実感できる。

誰もが知ってて当たり前、そんなことを少女はこの暗い部屋で確認する。まるで自分は正しいと自分自身に言い聞かせるように。
少女は知っている、右側の壁にある飾り気の無いドアを開けると、明るい世界が待っていることを。
少女は知っている、ドアを開けて明るい世界に行こうが、この世界に篭っていようが、自分に明るい未来は無いと。

暗い部屋の中で、今日も少女は自分を肯定する作業に勤しんでいる。
少女に未来は訪れない。



Copyright © 2005 夏至 / 編集: 短編