第37期 #1

かおり

 記憶にあるこの香り。何の香りだっけ。

 いつも通りの道を歩く私。周りには誰もいない。朝練があるから家を出るのは普通の人より1時間位早い。さっきから気になってるこの香りの正体を考えながら歩く私。そんな事でも考えてないと、昨日の事を嫌でも考えちゃうから。

 10月2日木曜日。雨。

 「大っ嫌いッッ」

 教室に響き渡った言葉は私に向けられたものだった。恥ずかしいとか、そういう部類のものじゃなかった。静まり返った教室に私を残して、その声の主は去っていった。
 私はただ彼女の話を笑っただけ。だって。私に愛のキューピットみたいな役をやれって話。漫画じゃあるまいし。
 彼女の名前は優利。名前どおり優しくて利口な子。優利とは友達以上恋人以下。親友ってやつ。私にとって彼女は、そりゃ大切ですとも。別に男に優利がとられる、とかは思ってない。…と思う。
 でも、好きなら真っ向勝負っていう直球勝負派の私に、その話は馬鹿げて聞えたわけで。優利だってそんな事分かってただろうに。
 だけど親友と思ってる子にそういう言葉を言われると、意外とコタえる。協力してやればよかったのかなぁと思ったり。でも、それじゃぁねぇ。

 昨日が金曜日で、今日が休みだったらどんなに良かったか。さすがに気が重い。教室にいた友達とも会いたくないな…って。結局考えてんじゃん、自分。なんだかなぁって一人で笑った時だった。

 「かおりィ―…」

 聞き覚えのある声。

 「かおりッ」

 私に追いついて一言。

 「昨日はごめんなさいっ」
 「…」

 ビックリするでしょ。だって、優利は朝練ないもん。しかも、謝られてる?私。

 「なんかあったっけ」

 心とは裏腹な言葉。
 嘘つき。昨日のあの時から今のイマまで考えてたくせに。

 「っ何でもない」

 そう言って微笑む優利。
 二人でのんびり歩くいつもの道。

 「かおり。あたし今日直球勝負してくるから」

 そう言って青い空を見つめる優利。
 やっぱり。分かってたんだ。

 「ふぅん。陰ながら応援してるゎ」
 「なんかいい加減な応援だなぁ」

 眉間にしわを寄せて優利がまた笑う。本気で応援してる、なんて言葉は要らない。だって。優利はきっと分かってるから。

 「ぁ。キンモクセイの香りだぁ」

 突然優利が言う。
 思わず笑う私。そんな私を不思議そうに見る優利。

 そっか。キンモクセイだ。

 二人で歩くいつもの道。笑い声が響くいつもの道。

 10月3日金曜日。快晴です。



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