第35期 #4

クリックせよ

 今年の春、俺はIT関係の新入社員になった。
だが、自宅にパソコンは無くワードやエクセルは初心者だ。
そんな俺に必要なのはソフトを完全にマスターすることだった。
おもいきってパソコンを買いに出かけ、あちこち店を見たが見つけることが出来なかった。
途中、お腹が空き飲食店を探しに行く。
賑やかな電気街を離れ、歩いていると近くの電信柱に、
「この先、パソコン有り、細い道を右に曲がれ」と書いてあった。
俺は凄く気になり、細い道を右に曲がった。

 すると、そこには赤い看板に「クリック屋」と文字が書かれている店があった。
薄汚れた店で客の気配は無く、無気味な場所だった。
 俺は店の扉をおもいきって開けた。
店内にはパソコンが3台しか無く、部品らしき物とガラクタのような物が置いてあった。
どこのメーカーなんだろうとパソコンを見ていると何か後ろに気配を感じた。
「いらっしゃいませ」と年老いた男の店員が言った。
俺はびっくりして爺さんの顔を見ると優しく微笑んでいた。
「何かお探しですか、お客様?」
「パソコンを探してるんです」俺は少し震えた声で言った。
「そうですか、お予算はどれくらいでしょうか?」
「なるべく安めでお願いします」
「では、こちらの商品はいかがでしょうか、こちらは初心者の方に大変お勧めですし、今ならワードとエクセルが付いてますから満足すると思いますよ、どうですか?」
「えっ、ワードとエクセル付いてるんですかぁ?」
「はい、大変お買得だと思いますがねぇ」
値段は30万円。
高いのか安いのか俺には分からなかったが、ソフトが付いてるなら仕事が上手くいくかもと思い購入した。
 
 翌日、パソコンが届き、説明書を読みながら準備した。
普通に起動され、ワードもエクセルも普通に使用出来た。
 だが、怪しい物を見つけた。
幾つかのアイコンの中に赤いアイコンが点滅している。
説明書を読んでも、そのアイコンについては書いて無かった。
ビクビクしながら俺はそのアイコンをクリックしてみた。
 すると、勝手にパソコンが終了して真っ暗になった。
壊してしまったのかと思い、説明書を読んでいた。
「クリックしましたね?」と小さな女の声で俺に繰り返し話し掛けてくるのが聞こえた。
すると突然、
「おめでとうございます大当たりです、インターネット使い放題、電気代も無料です、こんなこと他ではありません」
 そして、勝手に起動され画面には「クリックおめでとう」と写し出されていた。



Copyright © 2005 千葉マキ / 編集: 短編