第35期 #1
「ふもとの寺から応援要請、二泊三日の出張を命ず」
突然に、本部長からのメール。出張旅費代わりのわらじを鮫島さんから受け取って、男は山道を下っていった。
男は、ふもとの寺のことは何も知らなかった。しかし、事務所も男の住まう小屋も、山ぜんたいが寺の所有と聞いて、男は後ろめたい気持ちを抱いた。まいにち、小屋のまわりに生えるヒノキの、一番やわらかい部分を削っていたからだ。
「あら、面白い形。これ、なにに使うの」
男がかばんの底から取り出した張形を尼僧たちは食い入るように見つめた。
「なんだか懐かしい形ね。ちょっと触ってもいいかしら」
「若いころはこういう形のものでよく遊んだわね」
「ここの、エラみたいに張ったところをきゅっと締めてあげると、男のひとはとても喜ぶのね」
かわるがわる手にとって、さすったりしごいたりしながら尼僧たちはしずかに笑った。
男は、集まってくる尼僧たちの張形を作ることにした。聞けば20年にいちどの大法会だという。後ろめたい気持ちに菩提心も重なった。工具一式を鮫島さんに電話で頼んで、さっそく仕事に取りかかった。既製品は作らない。一本一本、使うひとのからだに合わせて彫りあげるのが、男のやり方だった。
まずよく洗い、毛を剃る。指で丹念に形をなぞり、挿しいれ、肉襞の細かいところまで、濡れ具合、締め付け具合をその形状とともに確かめる。
場合によっては、自分のものを入れてみる。入れてみないと求めているものがわからないこともある。禁欲生活が長いせいか尼僧たちは、入れてみないとわからなかった。
いったいどれだけのおまんこをやっつけたのか、朦朧としてきた明け方、そのリズミカルなお肉の収縮に記憶の底をくすぐられ、じっと顔を見つめれば、頭を丸めた鮫島さんが、
「列に並ばないとあなたに会えないと言われて」
言いながら、ぎゅんぎゅん男を締め上げる。
「でもここは、あなたの来る場所じゃなかったの」
襖のあちら側で、順番待ちの女たちがいらいらと畳をむしっている。
「ここはふもとの寺、じゃなくて、ふともも寺、なのね」
不意をつかれて男は中出しした。鮫島さんはそれをぎゅっと搾り取るとすばやく立ち上がり、二つの石を激しく打った。火はみるみるうちに襖をつたって天井をなめ、二人が逃げ出すころには寺ぜんたいを包み込んだ。それでも女たちは、燃えさかる炎を祝うかのようにぞろぞろと、乾いた街のほうから集まってきた。