第34期 #2

親愛なる友へ

 私の名前は優子、趣味は読書と料理。
幼い頃から母は良く言っていた。
「優子はね、良く寝る子でね、あんまりミルク飲んでくれなくて苦労したのよ。でもこんなに大きく育ってくれて神様に感謝だわ」
 
 母は今年の夏、癌でこの世を去った。
私には兄弟も父親もいない。
母と私だけの生活は寂しさなんてなく、暖かい母の優しさに包まれていて幸せだった。
素朴な家庭料理、母の歌声、笑った顔、柔らかな手、いつものエプロン、母の寝顔、何もかもが私にとって全てだった。

 悲しい出来事と共に眠れない日々が続き、睡眠不足のため仕事に影響が出てきて退職した。
母の死から半年が経ち、何も喉に通らず私は痩せていた。
 ある日、昔からの友人である亜紀から電話があった。
「最近、外で見かけないけど大丈夫?」
亜紀は私の幼なじみで八百屋の娘だ。
母が死んでから買い物にも遊びにも行かなくなった。
返事のない私に「今からそっちに行くから」と言う。
私は「ごめん、ほっといて」と言った。
寂しいのに一人になるのが恐いのに、助けを求めることが出来ない私は自分に苛立ちを感じていた。

 一ヶ月後、亜紀が突然、家に来た。
骨と皮しかない優子を見て亜紀は泣き、強く抱き締めた。
「こんなに痩せちゃってどうしたの、どうして何でも話してくれなかったの、優子?」
亜紀の問いに私はいつの間にか泣き、
「ごめんなさい、お母さん」と小さく囁いた。
とても母に似ていた。
小さい頃に心配されて強く抱き締められたことがあった。
あの時の母に似ていた。
亜紀は「もう大丈夫よ、優子には私がついてるからね、一緒だからね」
その暖かい言葉に私は感動していた。

 数日後、弱った私の心を治すために亜紀に連れられ精神科へ行った。
「もうこれで大丈夫よ、ゆっくり歩いていこうね、優子」と優しく亜紀は言う。
その言葉に優子は母親が生まれ変わったように思え、涙を流した。
「お母さん、ずっと側にいてね、優子から離れないでね」
亜紀は、その問いに「うん」と頷いた。
優子が求める強い愛を理解してあげよう、今は母親の代わりになろう、亜紀は優子を支えていこうと決意した。
 
 優子の心が晴れますように、いつか私のことを友達だと気付いてくれますように。
亜紀は願った。
久々にスヤスヤと無邪気な子供のように眠る優子。
その横で亜紀は優子の頭を撫でた。



Copyright © 2005 千葉マキ / 編集: 短編