第33期 #9

最後の日

『私は何時も独りだった』君は僕に背を向け呟く。
僕は何時も通り嘘をつく『そんな事無いじゃないか』
『嘘吐き』君は吐き捨てた様な言い方をした。だけど初めてじゃない。僕の嘘も何時もとなんら変わりは無い。『嗚呼、僕は嘘吐きだ。君も同じだけれど』少し哂いながら言う。きっと君は怒る
『私は貴方とは違う。』声を荒げて君は言う。やはり君は怒る。
『僕らの何が違うんだい?君も僕も虚言壁だ。現に君は約束をまた破った』僕は君の細くて痛々しい手首を掴む。紅い血が指まで流れる。君は言いにくそう言った。『ええ』
僕らには何の感情も生じない。愛も、友情も。
否、生じてはいけなかったのです。一生此の儘でなければ。
何時の間にか僕等の話は途切れていた様です。
僕は呟いた『大体君には彼が居るじゃないか。』君は少し間を空けて言った『あの人は私を愛さない。尤も私は愛なんてものに縋るほど莫迦じゃないし莫迦になれないだから私は彼を愛さない』
僕は云った『知って居るよ。』暫しの沈黙。
彼女が沈黙を破る『苦しい』僕は尋ねる。『御薬は?』
『昨日、全て川に棄てました。』君は当り前の如く言いましたね
だから僕はいいました『これから如何するんだい?』
君は嘲笑う『これから?今日が世界の終わりの日です。』
僕も哂う『だからこんなにも今日は皆騒がしいのか』確かにあの日は皆、おかしかった。テレビを付けても何もやっていなかった
『下の人は浮かれているのか恐れているのかよく解らないわ』君は本当に理解できないという顔で言ったね。あの顔よく覚えているよ
あの後何を話したか、あまり覚えて居ないんだ。君は笑うだろうけどね。だけどあの日の空、人そして君を僕はとてもよく覚えているよ。あの日は世界が優しかったたとえこんな僕にも。
唯、最後は勿論覚えているよ。世界は後五分で終わろうとしていた。僕はさらりと云いました。『愛しているよ』君は哂って言った『其れだけは云っちゃ駄目。でももう善いですよね?』僕等は五分だけでも恋人になれたのでしょうか。君も僕も永遠に時間が止まればいいのにと馬鹿げた事を言いながら最初のキスをしました。あんな幸福初めてだった。けれども時間は迫り来る。
世界はカウントダウンに入りました。10。僕等は手を握る。9。君が目を瞑る。8。僕は君に最後のキスをする。7、6、5。唇を離す
4、3、2、1。僕等はもう一度手を握り締める。
0。世界は温かい光に包まれる。僕等は笑う。


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