第31期 #3
黙々とその並木道を探索していると、一枚の木の葉がひらりと舞った。
行きかう人々はその瞬間に目もくれず、かくしてその葉はばりばりと踏み砕かれたように見えた。
木の葉は、ひらりひいらり、とよじれた透明の螺旋を描き、空中をすり抜けた。私はその動きを目に焼き付けようかどうか迷った。明確な選択など傲慢な未来観の中にしか存在し得ない、という明確な確信に背中を押された様な気持ちがした私は、焼き付けない事にした。
舞い落ちる木の葉は一枚だけでは無い。幾度となく訪れては去ってゆく季節の所為で、目に映る一枚の木の葉は記憶の中に眠る幻の影と踊るように映るのだ。
それにしても気味が悪い。枯れた葉は古い友人を思い起こさせた。その友人は、一番最後に会った時このような事を言ったように覚えている。
「完結する情熱に命は燃えないよ」
その言葉が何を意味するのか、その発言が何を示唆するのか、はっきりと判りたくもなかった。それ程私は若く、彼はすれていたのだ、と信じたい様な気持ちに、いつも私はその発言を思い出すと、させられる。
それとも実際には彼はそんな事は言っていなかったかもしれない。単なるイメージかもしれない。そうなるとそのイメージは本当の彼と私の間に浮かぶ形而上の色をした、形而下の輪郭を持ったアブクに過ぎない、と今となっては言えるのかもしれない。
何しろその頃の彼も私も、今には居ない。勿論そんなアブクさえも空気に溶けた。そんなものを今更どうして復元でもしたいが如く脳裏に巡らせる必要があるのか、と言えば、木の葉がひらりと舞ったからに他ならないのである。