第31期 #15

私はいつからこの地に存在しているのか。
過去の記憶はもう随分消えかかっている。
町のニンゲン達も、そう、それこそ昔は私を神として崇め
私の存在理由と自尊心を満足させてくれていた。
未来永劫、お互いに良い関係を築いていけると思っていた。
そう、あの頃のことばかりを振り返ってしまう。

あれはいつの頃からだったろう。

私を形作る木々が次々と切り倒された。
北面は大きく削られ、不恰好な住居が立ち並んだ。
腹に大きな穴を開けられ、轟音を響かせて列車が往復した。
大蛇の如くの道路が胸にとぐろ巻き、送電線に縛られて
頭はコンクリートで固められ市内を一望する展望台が建てられた。
空の弁当箱、壊れた自転車、テレビに洗濯機に冷蔵庫。
ありとあらゆる不要物を背負わされ。

怒りを爆発させる私の同胞達も世界にはいると聞くが
私にはそんな気力も体力もない。
諦めと絶望。絶望と諦め。
まだ私の体そのものが存在している、
そう、それだけで満足するしかない。

目まぐるしく変遷していくニンゲン達。
滅びるのは私が先か。まあ、どっちだっていい話だ。

私をねぐらにしてきた最後のヒヨドリ一家が挨拶に来た。
「今日までありがとう。でも、もうここで住むには……」
うん。すまないねぇ。幸せに暮らせる土地は見つかったかね。

昔は。そう。熊もいたオオカミもいた猪もきつつきもリスも
きつねもたぬきもうさぎももりゅうもなんだっていた。

夕焼けが世界を赤く染め上げる頃、私は沈み行くお日様に語りかける。
私は誰ですか。
思考を停止してもいいですか。
なんだかとても疲れました。
最近は、過去を振り返るばかりです。
そして。
楽しかった思い出は一日一日どんどん忘れていってしまいます。
明日はお天気ですか。
春はそこまで来ているのですか。

永遠ってなんですか。


Copyright © 2005 さいたま わたる / 編集: 短編