第286期 #2

劣情

バイト先に綺麗なパートさんがいた。

外資系の会社で働く旦那と小学生の息子いる人だった。仕事中は何かと気にかけてくれて、ゆるく巻いた髪が揺れる時ふわっといい匂いがした。笑うと目尻に何本か皺ができるのがなんとも可愛らしかった。アップルウォッチを買った時に自慢してくる無邪気なところもたまらなかった。とうとう僕は彼女の中身など知りもしないまま彼女のことが大好きになったのだ。

ある夏の日、暑気払いを名目とした飲み会があった。テーブルの遠くに座る彼女と目が合うとにっこり笑いかけてくれた。愛していると思った。何を捨ててでも守りたいと思った。終電がなくなった。僕は童貞だった。

「君となら大丈夫だよね。」ホテルに入った。童貞ではなくなった。

朝を迎えた。旦那と子供を裏切ったこの女と一刻も早く離れたかった。仕事中アイコンタクトしてにっこり笑いかけてくる。あの目尻の皺が気持ち悪かった。

僕は大人になった。



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