第285期 #1
お母さんがゾンビになったら殺してね。そう言っていたお母さんは、ゾンビになった。
唸り声をあげて、僕を睨みつけるお母さん。それは、もうお母さんではなかった。血走った目で今にも僕に襲い掛かろうとする。でも、ロープで手足を縛っているから、ただもがいているだけだ。
数分前、お母さんはゾンビに襲われた。家から出ないでとあんなに言ったのに、外の様子が気になるからと出て行ってしまった。血相変えて戻ってきたお母さんの腕には、噛まれたあとがあった。もう遅かった。
お母さんは、すぐに自分をロープで縛るように言った。そして、みるみる間にゾンビになった。
僕は動きやすいよう学生服を脱いでから、キッチンに行くとビニール袋を手に取った。これを顔に被せて、ロープで首を絞めれば、顔を見ずに殺せる。
ゆっくりとリビングにいるお母さんのもとへ戻る。あいかわらず僕に襲い掛かろうと歯を剥き出している。
ごめんと呟いて、噛まれないように気をつけながらビニール袋を頭に被せた。ロープを首に巻き付けていく。それから、手に力を込めた。
静かだった。自分の心が静まり返っていた。まるで何とも思っていないかのように、淡々と絞めていく。しばらくしたら、お母さんは動かなくなった。
カチカチと時計の音が響いている。それ以外、なにも聞こえなかった。
ふとテーブルに置かれた2人分の食事が目に入った。ゾンビになる前、お母さんが作ったものだ。いっしょに食べるはずだった。
立ち上がりテーブルの前に座る。丁寧に作られた愛情のこもったおにぎりとお味噌汁。いただきますと言って、手に取り頬張る。お味噌汁をすする。涙が頬を伝う。