第281期 #1

あっち向いてホイ

 ある雨の降りしきる薄暗い日だった。放課後、私たちはクラスの何人かで集まって怖い話をすることになった。各々が知っている怖い話を、順番に出し合っていく。一通り話し尽くした時、一人が口を開いた。
「鏡の中の自分とあっち向いてホイをする方法知ってる?」
 私も含めて、みんな首を横に振った。
「知らない」
「私も。聞かせてよ」
 彼女が言うには夜中の午前2時、三面鏡の前で行うのだという。
「先輩から聞いた話なんだけど、真っ暗な部屋でロウソクを一本だけ灯すの。もちろん一人きりでね。そして、鏡にいる自分とじゃんけんする」
「なにそれ。あいこになるだけじゃん」
 わっと、みんな笑った。けれど、話している本人は真剣な顔つきで続ける。
「そう。普通はあいこになる。だって鏡だもん。でもね、何十回も続けていたら、向こうが違う手を出すんだって」
「……鏡にうつる自分がってこと?」
「そう。で、じゃんけんに勝って、あっち向いてホイも勝ったら願い事が叶う」
「そうなの?」
「うん。どんな願い事でもいいみたい」
「えー夢みたいな話。ちょっとたのしそう」
「けどね。……もし、じゃんけんに負けて、あっち向いてホイでも負けたら、鏡の中に引きづり込まれて戻って来れないって」
 その言葉に、みんなの顔がこわばった。
「なにそれ。やだ怖い」
「待って。ちゃんと逃げ道もあるんだよ。じゃんけんに負けたら、すぐにロウソクを消せばいい。そしたら、このゲームを強制的にやめることができるみたい」
「向こうがあっち向いてホイを始める前に、ロウソクを消すってこと? そんなうまくいくかな」
「……やったことないから、わからないけど、たぶん」
「えぇ、無理無理」
「怖すぎて絶対できない」
 口々にそう言う中、一人がゆっくりと手を上げた。
「私、興味あるかも。部屋に三面鏡あるし」
「えー、やめときなよ」
「面白そうだもん。今日の夜、やってみよっかな」
 周りは止めたけれど、本人はやる気満々だった。
「じゃんけんに負けたら、ロウソクを消せばいいだけ。あっち向いてホイをしなければいいんでしょ?」
「でも、もしロウソクがうまく消せなかったら……」
「平気よ。そもそも、どうせ作り話なんだから」
 笑いながらそう言って、帰っていった。

 翌日、その子は行方不明になった。母親の話によると、朝起きたら、娘が忽然と居なくなっていたと。鏡の自分に負けたんだ、と私は悟った。それ以来、三面鏡が恐ろしくて見れない。



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