第28期 #20

緑の葉 赤い林檎の歌

 スクリーンには様々なものが映し出されていた。緑が強調された夢のように優しい色彩で。ぬいぐるみ。小さな手鏡。ピアノ。それらに降り注ぐ沢山の小さなガラス玉。全てあたしが無くしたものばかりだった。会場は満員で、皆しくしく泣いていた。
 あたしはポテトチップを食べ尽くしてしまった。手には小さな林檎が一つだけ残っていた。あたしは林檎に歯を立てる。スクリーンにはあたしが、寒いと泣く母の為に赤い着物を買いに行く場面が映し出されていた。母は白い裸体を惜しげもなく晒している。あたしは食べ終えた林檎を、窓に向けて放った。ガラスが粉々に割れる。その先に青空が見える。
 電車に乗り、無人駅で降りた。
 無人駅にはフリーマーケットが開かれていた。灰色にくすんだ無人駅に、原色の服が沢山並べられている。
「この感じはまるで昔の彩色写真のようね」
 ベンチには軍服を着た女兵士が座っていた。
「そうね」
 あたしは隣りに腰を降ろす。
 駅の構内は原色の服や派手な色彩の土産人形などで賑わっている。フリーマーケットで、ここはどんどん賑やかになっていくようだ。スピーカーからは昔のロックが微かに流れている。
「日記見せてよ」
 催促され、あたしは女兵士に日記帳を手渡す。
「日記見てね」
 女兵士はあたしに日記帳を手渡す。
 まさに交換日記だった。あたし達はここでたまに日記を見せ合う。
「何も書いてないね」
「少しさぼっちゃって」
 あたしは彼女の日記に目を落とす。白紙だった。
「何も書いてないのね」
「うん」
 沈黙が流れる。あたしは今日見た映画の話をしようと考える。
「結局、理論的に完全に美しい絵、っていうのは、どういったものなのだろうね」
 多分こういうことを言う時点であまり才能が無いのだろうな、と思う。美しい絵を見ても、あたしは気づかないのかもしれない。
 女兵士はあたしを微笑みながら見ていた。
「ねえ」
 あたしは彼女の背に手を伸ばし、銃を掴んだ。
「決闘をしましょう」
「良いわよ」
 あたし達はベンチに座ったまま向かい合う。あたしは引き金を弾く。ぱん、という音と共に弾丸はまっすぐに飛び、彼女の背後に置かれていたボトルシップを破壊した。
 ばちゃん。
 女兵士はあたしに向かってケーキを投げた。
 そうか。今日はクリスマスか。あたしは呟く。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 女兵士は優しく微笑みながら、あたしの顔に突いたクリームを静かに舐め取り始める。


Copyright © 2004 るるるぶ☆どっぐちゃん / 編集: 短編