第28期 #13
今日の晩ごはんは、カレーライス。変わり映えしない、いつものメニューだ。
カレーの日、母さんはきまって遅くなる。今日もまた、1人きりの食卓。まあ、いつもの事だけど。
たまねぎを刻み、ジャガイモの皮をむく。にんじんは入れない。
手馴れた作業を、淡々とこなす。家事はほとんど僕の仕事だ。でも辛くはない。忙しければ、余計なことを考えずに済むから。
完璧な出来ばえのカレーを食べながら考える。いったいどこのどいつだろう?料理は愛情、なんて言ったのは。そんなものが無くてもうまいものはうまいし、まずいものはまずい。現に、愛情なんかこれっぽっちも入れた覚えのない僕の料理は、はっきりいってうまい。僕に言わせれば、うまい料理を作る秘訣はレシピどおりに作ることだ。
そういえば、母さんは僕のカレーを食べたことがない。まあ、どうでもいいことだけれども。
食べ終わると、特にすることもなくテレビをぼうっと眺めている時間が続く。僕はこの時間が一番辛い。何もすることがないが為に、つまらないことを考えてしまう、押し込めていたはずの感情が止まらなくなる。
母さん、知っていますか?今日僕はみんなと野球をやったよ。算数のテストでいい点とったよ。母さん、覚えていますか?今日は僕の誕生日なんだよ・・・。
テレビの砂嵐の音に目が覚めるともう深夜だった。目が痛い。何時の間にか寝てしまったらしい。まだ母さんは帰ってないようだ。もう寝よう。そう思って自分の部屋のドアを開け、ベッドに横になった。
そのとき僕の目に映ったのは壁に貼ってある一枚の写真だった。それはまだ父さんがいて、母さんが今ほど働いていない頃、近くの公園に行って三人でとった写真だった。別にその写真自体に何か特別な思い出があるわけではない。でも今の僕には写真の僕の笑顔がなぜかとても眩しく映った。
「なんでお前はそんなに幸せそうなんだよ」
僕は声に出して呟くと、写真に背を向け、リビングへと戻った。
母さん、僕はもう少しだけ、あなたを待ってみようと思います。
2人分のカレーライスを作って。