第275期 #1
「すみませんでございますが……」
後ろから女の子の声が聞こえた。
「はい?」
振り返ると、目の前にはとびきり可愛い美少女が立っていた。年の頃は18〜20歳くらい。大学一年生といったところだろう。誰が見ても「可愛い」と思う、ごく普通の美少女だ。
「どうしたの?」と私が聞くと、
「あの、すみませんでございますが、わたくしどもは宇宙人でございます。このたび春の折、貴方さまの地球へ参りました。あ、あの……」
彼女は緊張しているようだったが、どうやらちょっと頭のおかしいタイプの美少女らしい。
「宇宙人? 君が?」と私は訊ねた。
「はいでございます!!」
少女は少し興奮気味に言った。
「吾輩は宇宙人でございます! 地球へ参りましたのでございます! ゆえに、地球のお主にお伝言をお伝えしていただけますかとご存知上げます!」
――なんだこの敬語は。
「え……」私は混乱しながらも、なんとなく事情を理解しようとした。
「本当でございます! わたくしは本物の宇宙人でございます! 我々は皆、このような姿をしておるのでございます! 決してただの弱き女子ではございません! 地球の言語に翻訳する際、最も適した表現形態として、日本語の“敬語”を選択したのでございます!!」
突然、近くを通りかかった地元の警察官が声をかけてきた。
「ちょっと君、どうしたの? 何かトラブルでも?」
「いえ、あの……この子、宇宙人なんです」と私は正直に言った。
すると美少女もすかさず言った。
「そうでございます! 警察殿! わたくし、宇宙人でございます! 今ちょうど、地球のお主とファーストコンタクトを試みていたところでございざんす!」
警官は目を丸くしてから、無線で誰かに連絡を取った。
「……はい、例の“敬語型”のやつです。保護班、至急お願いします」
「え?」私が呆気にとられていると、警官はため息をつきながら言った。
「今月で3体目です。どうやらあの星、Google翻訳だけで地球語覚えたらしいですよ」