第274期 #4

決戦少女

 少女は川沿いに立ち、唇をかみしめる。
「前回が事件なら、今回は事変や」
 時は来た。風が枯草をゆらし、頬をなでた。

 半年前――
 朝日が木々や建物を照らす。全てが生まれ変わる。少女は深呼吸をし、川沿いのウォーキングを始めた。新鮮な冷気が全身に満ち、心地よい。

 奴がいた。遠くからでもすぐにわかる。山脈を背負うが如く威圧的なオーラを放つ。ジャージにキャップ、サングラス、バラクラバと全身を布で覆う男。少女の正面から猛然と迫り来る。

(今日はどちらが譲るのか…。)道はやがて交わる。少女は苦々しく思う。男は流れを変えず、岩塊のような圧迫感を漂わせ、揺るぎなく前進してくる。

 直前に少女が折れた。その瞬間、ジャケット同士がこすれる鋭い音がした。互いの渦からエオルス音が咆哮したかのように。

 男は一瞥すらせず遠ざかる。見えない距離となった時、少女は感情を爆発させた。
「私の朝を毎度、台無しにしやがって!」
この屈辱を晴らすのだ。

 少女の試行錯誤が始まった。サンドバックに激しく何度もタックルする。敵を討滅するのだ。筋トレをし、良質な食生活を心がける。体型や肌艶がよくなり、綺麗と言われる事が増えた。

 重厚な肉体に反し、俊敏性が高いかもしれない。想像上の宿敵は、膨れ上がり蠢く。足を狙おう。深夜の公園にヌンチャクの音が響きわたる。

 闘志を見破られてはいけない。女性的な容姿にも注力した。三人ほどに告白されたが、そんな事はどうでもいい。

 出陣じゃ。ウエイトジャケットにアームベストで武装する。フリルたっぷりのコートで隠すと、ヌンチャクを装着した。彼女は気づいた。(これ…ぶつかったらワイ内臓損傷や)――アホでもあった。

 しかし、めげない。駐車場にスピードリングを置く。上半身を反らし、ステップを刻んだ。竹の如く敵の力を受け流すのだ。意味あるん? 分からなかった。続く迷走。月日は流れた。

 万を期した――
 苦渋を味わった時間と場所にいる。少女は宿敵の存在に目を走らせる。(いない…どこにも。)隅々を探したがどこにもいない。木枯らしが吹いた。冬になっていた。今までの労力は何だったのか。少女は拳を震わせた。これも全て、あやつのせい。

 スケッチブックに奴の絵を描く。復讐を忘れない為だ。だが、思った通りに描けない。絵画教室の予約を入れた。先生よ、イケメンであれ。くそったれと呟きながら。

 戦いは続く。今度は紙の上で――続



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