第268期 #2

東京魔法専門学校

「かなり深刻な状態です。このままだと我が学校は潰れます。」

東京魔法専門学校の大会議室に校長先生の厳しい声が響いた。教員たちが座る長テーブルを見渡すと、誰もが難しい顔をしている。

「最近、魔法より科学技術のほうが人気ですが、我々への影響も非常に大きいです。国が科学技術庁を設立し、魔法部の公務員定員を大幅に減らしたせいで、卒業生の進路が狭くなりました。その結果、学生の質が低下し、出願者も激減しています。学生募集が非常に困難な状況です。」

校長先生は一旦言葉を切り、咳払いをした。

「さらに問題なのは、学生たちの魔法に対する意識です。一年生の自然魔法実践の試験では、ライターと氷入りのコップを持ち込んだ者がいました。試験官に‘これで十分だ’と胸を張ったそうです。魔法通訳基礎の試験では、Apple Watchでカンニングを試みた学生がいました。二年生に至っては、中級魔法移動を習得済みにもかかわらず、電動キックボードで通学する学生がいます。彼らに理由を尋ねると、『テレポートなんて意味ない。飛行機のほうが早いし安い』と言い返される始末です。学生ですら魔法を信じない時代になってしまったのです。」

教員たちの間に困惑の空気が漂う中、校長先生の話は続く。

「さらに、うちの学校はスマートフォンを禁止し、魔法通信を基本としています。しかし最近、トイレでこっそりTikTokを見ている学生が増えています。もう学級崩壊と言っても過言ではありません!」

会議室に重い沈黙が落ちた。教員たちは顔を見合わせるが、誰も口を開けない。やがて、魔法教務主任のW先生が手元のメモ帳を閉じ、ゆっくりと口を開いた。

「校長先生、確かに学生たちの規律には問題があります。でも…そう言っている貴方も、最近ベンツを買ったのではありませんか? それはどういうことですか?」

また沈黙が訪れた。教員たちは視線を交わしながら、校長先生の反応を待つ。

校長先生はしばらく口をつぐんでいたが、やがて観念したように頭を下げ、ぽつりと答えた。

「それは…科学技術の良い面を研究して、時代遅れにならないためだ。」

その直後、会議室の照明が勝手に明滅し始め、黒板には一行の文字が浮かび上がった。

「科学技術は魔法を超えた。」

教員たちは顔を見合わせ、誰かが小声でつぶやいた。

「校長…これは誰の魔法ですか?」



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