第267期 #3

ピエロ

僕はピエロ。
皆を楽しませるのが仕事。
いつも笑顔だから、自分の感情がわからなくなった。
僕は幼い頃に捨てられた。
それを見つけた団長が僕を拾ってくれたんだ。
団長は僕に色々な経験をさせてくれた。
猛獣使いや空中ブランコ、ハンドtoハンドやデスホイール。
どれも楽しかった。
世の中の子のように学校には通えなかったけど、サーカスに必要なことは何でも教えてくれた。
小さい頃、僕は売れっ子だった。
まだ若いのに危険なことを平然とこなすから。
ライオンに食べられそうになったこともあるけど、なんとか免れた。
でも、僕はもう小さくない。
僕はもういらないんだって。
団長に捨てられた。
お金がないから。育ち盛りの僕は負担なんだって。
それから僕は、働く場所を探した。
そして見つけたのは、ピエロのバイト。
なんと三食部屋付き!
誰がなんのためにやっているのかは分からないけれど、あの時の僕にとってはまさに救いの手だった。
それから僕は毎日ピエロになった。
ある時は遊園地
ある時は幼稚園
ある時は大道芸の幕間
自分の感情を殺して、いつでも笑顔でいた僕にはピッタリの仕事だった。
僕の姿を見て泣き出してしまう小さな子もいたけれど、沢山の人が笑ってくれた。
楽しんでくれているんだと思っていた。

でも、ある日気づいてしまったんだ。
あれは、あの笑顔は「自分より下の者を見て安心する顔」だと。
同じ立場じゃなかったこと。
馬鹿にされていたこと。
初めて人を憎いと思った。
羨ましいと思った。
嫌いだと思った。
僕はサーカスにいた時「可哀想な子」として注目を浴びていた。
憐れむように拍手されていた。
僕は搾取されていただけだった。
もう、辞めてしまいたくなった。
だけど、そんなお金もないからバイトを続けていた。

僕はピエロ。
人への醜い感情を殺して、自分すらも騙す。
そんな偽りだらけのピエロ。



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