第266期 #8
かつて、赤ちゃんが爆弾として戦争に利用された時代があった。
それはベイビーボムと呼ばれ、爆撃機から赤ちゃんが投下されると爆発するが、不思議と赤ちゃんが死ぬことはない。
地上に残った赤ちゃんは後で回収されるが、戦火で死んだりしていつも半分ほどの赤ちゃんは返ってこなかったという。
「この世界大戦において赤ん坊は肝要の戦力であり、その数によつて戦争の趨勢が決まるのです」
当時、街頭演説をした政治家の言葉だ。
「赤ん坊は爆発しても死にませぬ。しかも我が子が爆弾になつて、国家の存亡を救う英雄天使になれるのですから……」
戦後になると、人道的な観点からベイビーボムの使用が国際条約で禁止された。
しかし、ベイビーボム世代はその後、爆発の影響で病気になりやすい体になったり、寿命が短くなったりしたという報告が多く上がった。
結局、因果関係がよく分からず後遺症の問題はうやむやにされてしまったが、彼らの子どもにあたる第二世代には奇妙な特徴がハッキリ現れた。
第二世代の彼らには何らかの超能力が備わっており、とくに強い力を持つ者は隕石を好きに落としたり、通信を一瞬で混乱させたりすることができた。
その後、大国による超能力者の奪い合いが起こったが、第二世代の彼らはそれに嫌気がさして集結し、南極大陸を実行支配して自分たちの超能力国家を誕生させた。
「我ら南極国は、まだ憲法もなく国際的な承認もない一時的な拠り所に過ぎません」
南極国のリーダーは、白い氷の台に立って演説をした。
「我らは、超能力で人類を支配することも可能です。しかしそれは、かつてベイビーボムを使って世界を支配しようとした人々と同じ愚かな行為であり、我らと同じような悲劇を産むだけです」
数年後、南極国は人類を支配すべしとする強硬派と、人類との対話を求める穏健派に激しく分裂した。
強硬派は人類の半分まで支配したが、反対勢力による抵抗やテロで統治が上手くいかず、面倒臭くなって南極に引きこもってしまった。
一方の穏健派は人類との対話を試み、一部に理解者も現れたが、第二世代というだけで化け物扱いされるだけだった。
「我々の超能力があれば宇宙へ出られるし、とりあえず人類と距離を置こう」
新しく選出された南極国のリーダーはそう宣言した。
「我々は、人類の支配にも対話にも失敗した。ただそれだけさ」
これが、われわれ火星人の歴史の始まりだと思うと、何だか……。