第265期 #1
「今年はすべての学部が定員割れ。このままだとうちの大学は潰れます。」
大学の内部会議で、学長が深刻な表情で話を締めくくった途端、経済学部のD教授が口を開いた。
「私に良い案があります。」
「ほう、言ってみなさい。」学長が少し身を乗り出して促す。
D教授は一度咳払いをし、堂々と続けた。
「我が大学は、国として独立するべきです。今の国から離脱して、新しい国家を作るのです!」
会議室が一瞬ざわつく。
「我が大学は、広大なワンキャンパスを持っているので、国としても十分な面積があります。独立すれば、全ての学生は自動的に留学生となり、海外の学歴を手に入れることができる。そして、我が大学はこの国唯一の“外国の大学”として、ランキングで一気にトップになります。
さらに、近隣のA大学やB大学とも交換留学ができ、留学生の受け入れも容易になります。学生にはビザを発行し、一般市民にも観光ビザを発行できます。キャンパス内に免税店を作ってもいい。税関も設けて、入国する観光客にオリジナルグッズを販売するんです。いや、いっそのことパスポートや国籍を売ってもいいかもしれない。二重国籍が許されるならばね。
学生たちは、この新しい国の公務員になるという選択肢も生まれます。これで我が学部の就職率もぐんと上がるはずです。
どうですか、皆さん。」
D教授が意気揚々と語り終えると、会議室は一瞬静まり返った。
その沈黙を破ったのは、教務課のI課長だった。彼はゆっくりと立ち上がり、真剣な表情で周りを見渡した。
「D教授、独立国家の構想、確かに斬新です。ですが…一つだけ大きな問題があります。」
「何ですか?」D教授がすぐに食い気味に尋ねた。「問題があれば、すぐに対策を講じます!」
I課長はため息をつき、淡々と答えた。
「実は、我が大学のキャンパスの土地、賃貸料がずっと未払いでして、地元自治体から差し押さえの警告が来ています。」
再び、会議室は静まり返った。しかし今回は、誰もが言葉を失った絶対的な沈黙だった。D教授も一瞬口を開きかけたが、結局何も言えずに閉じた。
「まずは…借金の返済から始めましょうか。」学長がぽつりと呟いた。全員が、無言で頷くしかなかった。