第251期 #5
「あっ、私ここに来るの最後にするね 」
彼女は淡々とブラジャーをつけながら言った。彼女がブラジャーをつけ始めて着古したパーカーに袖を通すまでの一、二分、壁掛け時計の秒針の音だけが俺の耳に響き出した。
ここ一年間彼女と俺は時々、互いの欲望を満たすために体を重ね合った。彼女のことを体の隅々まで理解したような気になり謎の優越感に浸りながらまた互いの体を求め合う、そんな一年間に幕をおろそうと彼女は言っている、そうだ、当たり前だ。なのに何故こんなにも気持ちが落ち込むのだろうか、セックスしたばかりだからか、明日からまた仕事だからか、雨が降っているからか、偽りの理由はいくらでも出てきた。
その中でも絶対に考えたくない要因に目を背け、ただひたすらに麦茶の入ったグラスの結露を見つめ続けた。
「好きな人できたんだぁ」
そう一言言って目線の拠り所だったグラスに手を伸ばし麦茶を一口飲んだ。
「だから、もう部屋を掃除してくれる人いないからね、洗濯物してくれる人も、あとご飯作ってくれる人も、だから早く(俺の名前)も好きな人作って世話してもらわなきゃねー。でも迷惑かけちゃダメだよ。 」
そんなことはわかっている、、つもりだ目線のやり場をなくした俺は横になりケータイを覗き込み適当な返事をした。
「一つだけ約束して」
部屋にある彼女の服や、化粧品が少し大きめのリュックに吸い込まれていく。最初からこのために持ってきていたのか。
「私みたいな関係の人は私で最後にするんだよ絶対 」
一〇分もしないうちに彼女がよしっと呟いて、立ち上がるとともに大きく膨れたリュックを背負った。リュックに重心を取られよろける。
「じゃばいばい! 」
部屋を出て行き扉が閉まる音がする、じゃららとポストに鍵を入れる音がした。徐々に涙腺が緩んでいくと同時に自分に対しての嫌悪感が込み上げてきた。これからどうすればいい、、彼女を呼ぶために朝昼とご飯をぬいたこと、わざと片付けずに放置した洗濯物、いったいどうすればよかった、、。いやこれでよかったんだ僕といると彼女は不幸になる、そう自分に言い聞かせ、悲劇のヒロインを演じた。彼女のシトラスの香水を感じるこのベットで泣きべそをかきながらただひたすらに演じる。ケータイに手を伸ばし彼女の誕生日の四桁を入力した。
「ずっとずっと好きでした。 」