第25期 #25
ドア越しにママのヒステリーとパパの怒鳴り声が聞こえてくる。あたしと一緒にプレステやっていた加奈子が「チッ」と軽く舌打ちした。
あたしと加奈子はけっこうわけありな関係だった。昼メロみたいな。加奈子が姉で、あたしが妹。あたしはパパの子供だけど、加奈子はママの子。パパもママも離婚して再婚してと、そんなふう。加奈子はあたしとも、離婚した加奈子のパパとも一緒には住んでいなくて、今は全然別の親戚の家で暮らしている。でもそれは加奈子自身が選んだらしくて、ちょっとカッコいいなって思う。本当なら赤の他人で、ママとはあんまり仲が良くないのだけど、加奈子はあたしに会いにときどきやってくる。
怒鳴り声。金切り声。恥ずかしいから加奈子が来ているときくらいケンカはやめて欲しいと思う。あたしも加奈子も妙に黙り込んでいた。たぶん、加奈子も恥ずかしいのだ。
最近よくパパとママはケンカをしている。じゃれあうようなケンカじゃなくて、すごく感じ悪くなるようなケンカ。ママが泣き出したり、パパが出て行ったりする。その原因は本当につまらないことで、例えばテレビのチャンネル争いとか。馬鹿みたいって思うし、もういちいち気にしても仕方ないなぁとは思うんだけど、あたしと加奈子は「また離婚するのかなぁ」とか「めんどくさいなぁ」とか話していた。
一瞬静かになって、それからドアの開け閉めの音が聞こえた。今日はパパが出て行ったみたい。あたしと加奈子は同時に「はぁ」とため息をついた。加奈子のほうを向くとスタッと目が合って、お互いに少し微笑み合う。
離婚とかになったら加奈子と会えなくなるなぁって、そんな無駄な想像に軽くブルーになっていると、加奈子の手が頭に乗ってきた。そのままあたしの頭を撫でる。
あたしは、そんな子ども扱いすんなよって思った。でもよくわからなくて、全然よくわかんない気持ちだけど、そんなのお互い様だなぁって思ったから、大人しく撫でさせてあげた。
守ってあげなきゃいけない小動物とか、そんなのに触ってると人間て癒されるものなのだ。あたしは小動物ほど純粋じゃないけど、加奈子のこと好きだし、だから純粋なふりくらいできる。
そのあと三時間くらいプレステやって、疲れたからうとうとと眠った。いつの間にか加奈子と手を繋いで眠っていた。加奈子の手が冷たくて気持ちよかったから、あたしも少しだけ癒された気になった。