第248期 #4
僕が通っていた小学校では、屋上への出入りが禁止されていました。それ自体は特段珍しい話ではないでしょう。どこの学校でもおおよそ同様の処置が取られていると思います。
ただ奇妙なのは、僕の学校の場合、その禁止令が児童だけでなく教職員にまで及んでいたことです。そう、僕たち児童だけでなく先生方も屋上に上がることを許されていなかったのです。実際、僕が調べた限り、屋上に上がったことのある先生は一人もいませんでした。
こんな話を聞いて想像を逞しくしない小学生などいないでしょう。特に好奇心が人一倍強かった僕は、四年生のある夏の日、何としても屋上に侵入してみせると決心しました。
その日の早朝、まだ先生方の姿もまばらな職員室に赴き、古びた屋上のカギを盗み取りました。その後、逸る気持ちを抑えて午前の授業をマジメに受け、昼休みになってから屋上に通じる階段に向かいました。そして周囲に人の目がないのを確認しつつ、身長かつ素早く階段を上りつめ、屋上に通じるドアの前に立ちました。
ついに来た。さあ、これから前人未踏の「偉業」を僕が達成するんだ――ワクワクとドキドキで手を震わせつつ、僕はドアを解錠して長年の封印を解きました。そして、友達も先生も、誰一人足を踏み入れたことのない屋上へと身を躍らせたのです。
……赤い。それが第一印象でした。
まさに鮮血と表現するのが相応しい深紅の夕焼け空が僕の頭上に広がり、屋上の床のタイルを真っ赤に染め上げていました。
(あれ? 今はお昼休みなのに……)
怪訝に思いつつ、とりあえず下界を見下ろしてみました。
眼下には運動場が広がっていて、ワイワイと追いかけっこやボール遊びに興じているみんなの姿が見られました。見慣れた光景です。
……一人残らず、人体模型のように半身の皮膚が剥かれていることを除けば。
――ヤバいッ!
俄に恐怖心が湧き起こり、急いで立ち去ろうとした時でした。
運動場にいる児童の一人が、こちらをジッと見上げていることに気付いたのです。
それは他のみんなと同じく無残にも皮を剥かれた、紛れもない僕自身でした……。
それから何があったのか、全く覚えていません。気がつくと、ぼくは教室で午後の授業を受けていました。
僕が見たのは夢か現か、今となってはわかりようがありません。ただアレ以来、夕焼け空と「屋上」という言葉に怖気を覚えるようになったのは事実です。