第247期 #2

モートン・フェルドマンに寄せて

石畳の階段を裸足で踏み、螺旋状の階段を、上に、風が吹いてくる方向に、歩いてゆく。夜。森林は水の匂いを逆立てる。石畳はひび割れ、その裂け目から、嗄れた根の悲鳴が漏れる。階段は果てしない。私の足跡が私の足音を記符する。私の足跡、鳥の糞が混じった泥の青ざめた痕跡。五線譜に収まらないその音楽を聴く者はいない。鳥たちは眠っている。鳴き交わす声が始まるまでは夜だ。私は昇りきってしまわねばならない、この階段を。自分が羽根を持たない動物であることが呪わしい。持っているのは、私を生かし、私を歩かせる、傷ついた小さな二つの足裏だけだ。その傷ついたわずかな面積で、私の歩みのすべて支えなければならない。私は一歩ごとに足裏になる。闇の中で爪先が新しいひび割れを、新しい根を探り、それを避ける。足裏の傷が広がり、石の階段を映す鏡になる。私は昇りきることができないと知っている。毎夜の繰り返しだから。最初の鳥の声とともに私は目覚めるだろう。朝日を透かす橙色のカーテンを、そのカーテンに囲まれた病床を、右腕と繋がれた点滴の柔らかい袋を、私は見るだろう。だが階段は、階段を上る私の足裏の傷は、まだ続いている。



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