第242期 #10

類友

「付き合って何年目ぐらいなら結婚してもいいと思う?」
「ん?」
たまたま休憩室で一緒になった同期が、コーヒーを買う俺の後ろからそう言った。
「何年付き合ってんの?」
「3年ぐらい?」
「あやふやだなぁ」
丸いハイテーブルにコーヒーを置いて、同期と向かい合う。
「で、そろそろ結婚しようかな〜って?」
問うたら「どうかな〜」とまた曖昧な返事が返ってきた。
「違うのかよ」
「どう思う?」
「いや、俺にきくなよ」

それから数日後。
あいつの上司から呼び出された。今、あの部署に関連している仕事もないし、呼び出される覚えもない。
指定された会議室に入ったら、「適当に座って」と促され、入り口に一番近い椅子に座る。
「山田のことなんだけど」と切り出され、「はぁ」と間抜けな声が出た。
「あいつ、最近何か悩んでいるとか聞いてないか?」
「そんなに仲良くないです」
「なんでもいいんだ」
「本人に聞いたんですか?」
「聞いたけど、なんでもないって言うし。でも、溜息が多すぎて、周りが迷惑していて」
「鼻詰まって、呼吸しにくいんじゃないですか?」
言って、そう言えば最近会ったとき鼻詰まっている感じではなかったな、と思い出した。
「……」
「スミマセン」
あの時、彼女との結婚がどうこう言っていたのを思い出し、「ちょっと話聞いてみますよ」と言うと、あいつの上司は「そしてくれると助かる」と言って、去って行った。

面倒くさいこと引き受けちゃったな〜と思いながら、休憩室の前を通ったら、以前プロジェクトで一緒になった後輩が泣きながら飲み物をすすっていた。
これ以上面倒なことに巻き込まれたくないと思って、サッと通り過ぎようとしたのに、なぜか後輩と目が合ってしまい、呼び止められた。
「俺、付き合って2年の彼女に、別の人と結婚するから、って言われて。僕とは始めから遊びだったみたいで、僕みたいのが5人ほどいるんですって」
「え?」

「お前の彼女、総務の佐藤さん?」
「そうだけど。なんで知ってんの?」
「なんで知っているかは置いといて、その人結婚するらしいぞ」
「俺と?」
「社外の人と」
「そうなの? なんだ、そういうことかぁ」安心したわ〜と山田はハイテーブルに突っ伏した。
「俺とは遊びだって言ってたのに、最近結婚がどうこう言うから焦ってさぁ」
はぁ?
「これで俺も遊ぶことを満喫できるわ。ありがとう、教えてくれて」
清々しい顔をして山田は去って行った。
遊ぶことって、お前もだったのか。



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